アナザー・コールズ プロローグ


今、私達が住んでいる世の中では、異世界という概念が確立していない。
しかし、それは私達の世界だけの話で、異世界全てが、自らの世界以外の世界を知っている。
それも、かなり広範囲にわたって。そんな我々の世界の、
とある十七歳の青年、沢原朝人(さわはら あさと)は、
やたら剣の腕が立つ事を除けば、ごく普通の青年であった。朝人は、同年代の平均から言えば、
割と整った顔立ちで、人当たりも良い。成績が悪い点、憎めないところもあるし、
恋人持ちにも関わらず、それを鼻にかけない青年だった。ただし、
彼は世間一般に言う『みなしご』というやつであった。
両親は朝人を残して謎の死を遂げたのだ。それ以来、朝人の身柄は、
恋人であり、幼馴染みである朝霞志乃(あさか しの)の両親の手に委ねられたのだ。
志乃の両親は、実の子供と変わらぬように朝人を優しく、厳しく鍛えていった。
そうして朝人は、長い時を朝霞家で過ごした。

だが、そんな朝人の運命を変えるのは、ここでは異世界と呼ばれる世界だった。
そう、いくつかの異世界の運命が、朝人の強さに見惚れて、力を借りようとしていた。
さて、最初に彼に接触するのは、どこの世界なのか……
もちろん、自分が異世界からの接触の対象になっているなど、
彼本人や、恋人志乃は知る由も無かったのだが……
いや、そもそも、志乃も偶然ながら接触の対象となっていた。
異世界に接触しようとする人物が望むと望まざるとに関わらず、接触してしまう場合がある。
どうしても仕方のない事なのだ。

だが、対象本人達はそんな事とはお構いなしに現実を生きている。
朝人と志乃、二人はお互いを支えあうようにして生きてきた。
そんな中で、朝人は両親の唯一の遺品。武術の秘伝書に従って特訓した結果、
一般の人間など及びもつかないほどの力量を手にすることができた。
そうしてそれは、志乃を守る力となる。
また、志乃は志乃で美しく成長し、見違えるほどになった。
朝人の一番の心の支えになっている。
二人は切っても切り離せない関係になっていた。いわゆる恋人というやつだ。

  ――悲劇というのは、大抵それを受ける者の都合など考えない。
いや、だからこそ悲劇なのだ。
二人が引き離される時が、間近に来ていた。
運命とは、往々にして残酷なものである。人間を弱くしてしまう。
ただし、それに負けない力を持つのも人間である。
これは、運命に巻かれながらも、懸命に異世界から生還した一組の男女の物語である。
ここは日本、平和な国――
時代は平成、平和な時――
運命の矢は、今放たれた。

第一章に続く


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