アナザー・コールズ オリジナルエピソード
呼ばれて飛び出てフルパニック! 〜皆でお出かけ〜


あれから二ヶ月の月日が経っていた。
朝人と志乃は、涼と霧子を連れて、魔法世界ガートルードに旅立とうとした。
「それじゃあ、志乃。頼むぜ」
「ふむ……異世界……か」
「楽しみだわぁ〜」
涼と霧子がそれぞれに期待と不安を織り交ぜた表情をする。
「では、一足先に行ってます。すぐ呼びますから」
志乃はガートルードに自還魔法で飛び立った。

シノはガートルードに到着するや否や、すぐさま召喚の準備をする。
しかし、アサト達の生体波長が探し出せない。
「反応ロスト!?」
シノは慌てて、地球へ自還を始めた。
しかし、シノが戻った自宅に、三人はいなかった……
「面倒な事に……ならなければ良いのですが……」
じっくりとイメージを固めて、改めてアサト達の波長を追い始めた。

しかし、思いの外、事態は面倒ではなかった。ただし、ここまでは、だが。
なぜなら、アサト達は、海底世界メイヴィスに先に召喚されていたからだった。
メイヴィスでアサトを知るのは、アサト達の元、宿敵。
ヘティー=マクレガーである。それはすなわち。余程の偶然が無い限り、
メイヴィスでアサトを召喚できるのは、ヘティーのみという事を意味する。
「ここは……ヘティーの屋敷か!?」
アサトは、辺りを見回して叫ぶ。
「どうもすみません。アサトさん……突然呼び立ててしまって……」
「ヘティー!」
当然、眼前にいたのは、ヘティーである。
「彼女は誰かね? アサト君」
「あ、親父さん。以前話してたヘティー=マクレガーです。彼女が」
「ほほう、彼女が君達の宿敵だったという娘か……切れ者と見える」
「可愛い〜」
リョウとキリコが、それぞれの感想を述べる。
ぽっと頬を桃色に染めるヘティー。
あの頃に比べれば、ヘティーの周りにあった悲壮感はだいぶ無くなっている。
(はて……しかし、ヘティー君は誰かの面影を感じさせるが……?)
リョウは、はっきりとでは無いが、感じ取っていた。
どうも、親友の妻に似ている……
どうも、アサトの母親に似ている……と。
しかし、リョウは考え直した。
(まさか……な。沢原年雄に、結奈……異世界などに関わりがあるはずも無い)
「そちらの方は?」
ヘティーがリョウとキリコに興味を示す。
「ああ、私はアサト君の養父で、シノの父。リョウだ」
「私も、同じく養母で、シノの母。キリコでっす。よろしくっ」
それぞれに自己紹介をする。
「ああ、そうそう。ヘティー」
「何ですか?」
「シノの奴を一緒に探してくれ。お前に呼び出されたもんだから、
 シノは反応がロストしたんじゃないかと思ってるはずだ。いるとしたら、
 地球か、ガートルードになると思うんだけどな……」
「まあ……私ったら……」
これにはさすがにヘティーも慌てる。
「シノさんの反応を探して、こちらから召喚します」
ヘティーはシノの反応を探す。もちろん地球をまず照準に……
(近くにいる……シノさんの波長……いた!)
ヘティーはシノの反応を捉え、すぐさま召喚の準備をする。
この辺の手際の良さは、皮肉ながら、宿敵時代に培われたものである。
しかし、その瞬間、地球上からシノの波長が一切消えた。
(反応ロスト!?)
ヘティーは驚愕する。
「シノさんの反応を見つけました……けど、すぐロストしました……」
「くっ! シノめ。勝手に探しに行ったな? 厄介な事にならなきゃいいが……」
「どういう事かね? アサト君」
「すみません。親父さん。シノの奴。こっちが探してるのに、あいつ勝手に俺達を探してます」
「まあ……あの娘の性格じゃそうでしょうね……ああ見えて落ち着きが無いんだから……」
キリコが意外にも冷静な一言を放つ。
しかし、やっぱりキリコである。
「でも? 大丈夫でしょ? あなた達が行ける異世界なんて、限られてるって
 言ったのは、アサトちゃんじゃなぁい?」
「正確には、シノが行ける異世界が、です。俺は引っ張られるだけですから」
「うふふ。何かシノちゃんのお尻に敷かれてるように聞こえるわね」
「冗談はそこまでだ」
リョウが鶴の一声でキリコを嗜める。
「とにかく、シノを探さねばな。他に行ける異世界というのはどこかね? アサト君」
「あ……えっと。あと二つです。竜世界バーナバスと、天空世界ルーファスです。
 もちろん、ガートルード、ここメイヴィス、地球を除いて、ですが」
「では、とりあえず、バーナバスというのを探してみるとしようか」
「じゃあ、頼むぜ。ヘティー」
「はい。では皆さん、私の周りに寄って下さい」
皆がヘティーの周りに寄ると、ヘティーは自還魔法を発動させた。
そして、アサト達はバーナバスへと舞う。

「ここが……バーナバスか」
バーナバスに到着するや否や、リョウが感心する。
「そうです。ここが竜世界バーナ……」
「あれ? アサトちゃん?」
突然アサトの回答が途切れたのを怪訝に思ったキリコが振り向いても、
アサトは近くにはいなかった。

アサトは天空世界ルーファスにいた。
「アサトさん。お久しぶり」
にこりと微笑む少女が一人。チェリー=スタンフォードであった。
「おい……チェリー」
「何?」
「俺ももう大概こういう状況にゃ慣れてきて、呼び出される事自体は
 何も文句はありゃしねぇんだがよ……」
「?」
「いくら何でもタイミング悪すぎゃしねぇかい?」
「どういう事? 場合によっては協力するわ」
「いやな……実は、親父さんとお袋さん連れて、ガートルードに遊びに行こうとして、
 先にシノに行ってもらって召喚してもらうつもりだったら、メイヴィスのヘティーに
 呼び出されて、ヘティーと一緒に勝手に俺達を探しに出て行ったシノを探しに
 バーナバスに転移した所で、お前に呼び出されたんだよ……」
「……あなたも大概波乱万丈な人生送ってるわね……」
「それの一端をお前が受け持ってる事を忘れるんじゃねぇ」
ジト目でチェリーを睨むアサト。
「とにかく、ヘティーを呼び出せばいいのよね?」
「ああ、頼む」
「それじゃあ、始めるとしま……」
そこまで言った時点で、チェリーの姿が消えた。
「げっ! 誰かチェリーを呼び出しやがったな!?」

「……しょうか。ってあれ!?」
チェリーは慌てふためいた。いきなり自分がガートルードにいたからだ。
「姉さん!」
「グリフィン!?」
そこにいたのは、チェリーの弟、グリフィンだった。
その恋人、ブリジット=クーパーも隣にいる。
「お久しぶりですぅ。チェリーさん」
「どうしたの二人とも? びっくりしたわよ」
「いや、ごめんごめん。実は、傑作の料理ができたんで、よかったら
 姉さんも一緒にどうかなって。戻るのに心配はいらないよ?
 僕、最近自還魔法も覚えたんだよね」
「あんた、変な馴染み方してるわね〜。でも、その料理はお預け、あんた達、手伝いなさい」
「?」
「あんた達がいきなり呼び出してくれるもんだから、アサト君と
 別れ別れになっちゃったじゃない。すぐにアサト君を探さないと」
「あ……アサトさんと一緒だったんですかぁ?」
「そう。厄介な事にならなきゃいいけどね。とりあえず、ルーファスから
 アサト君の反応を探さないとね。手伝って。グリフィン、ブリジットちゃんも」
「うん」
「分かりました」
そして一分後……
「いた! お願い、グリフィン!」
「うん! 行くよ!」
グリフィンは二人を近くに寄せて、自還魔法を使った。
すぐそこにシノが自還魔法で現れた。
「ブリジットさん達がいない……出かけているのかしら……?」
まさか、グリフィンが自還魔法を覚えたとは思いもよらないシノだった。
「とりあえず、メイヴィスでも探そうかしら……」
シノは、もはや誰もいないメイヴィスに自還した。

「アサト君!」
「おっ、戻って……」
そこまで言った途端、チェリー達の目の前からアサトの姿が消えた。
「え?」
今度こそチェリー達は困り果てた。
「とりあえず、シノさんは、チキューに戻ってるのかもしれないわ。
 そうすれば、一緒にアサト君を探せるはずよ。チキューへ……って、
 行った事ないから、全然分からないわね……じゃあ……どうしようかしら?」

その頃、ヘティー達は、ガートルードに来ていた。
「さて……とりあえず、ゼナスさんの所にでも行きますわね」
「うむ……確か、アサト君を鍛えてくれた人だったね?」
「シノちゃんの力を解放した人でもあるのよね?」
「そうですわ」
「ゼナスさん……ゼナスさん?」
ゼナスの住んでいるはずの洞穴には、ゼナスはいないようだ。
「ゼナスなら、ここにゃいねぇぜ」
そこから出てきたのは、しばらく前、アサト達と一緒にヘティーと戦った、
ホプキンズ=バーンストン、ゴドフリー=ラオ、
モーリス=シャルパンティエ、ユニケ=レストレードの四名だった。
「ホプキンズさん、それに他の皆さんも、お久しぶりです」
「よう、姉ちゃん、久しぶりじゃねぇか。その後ろのとっつぁんと美人は誰でぇ?」
「あらあら、美人だなんて……」
「お世辞だ。真に受けるな」
あっさりとリョウが照れるキリコを黙らせる。
さすがにこれにはキリコも不満顔だったが。
「シノの父、リョウです。よろしく」
「シノちゃんの母、キリコよ。よろしくね。アサトちゃんから
 話は聞いてるわよ。あなた達が、ホプキンズさん達ね?」
「おう。呼び捨てで構わねぇぜ。堅っ苦しいのぁ、性に合わねぇからよ」
「皆さん、ゼナスさんがどちらへいらっしゃるのか、ご存じないですか?」
ヘティーがホプキンズ達に質問する。
「ゼナス殿……いや、ゼナス様なら、風の国、王城にいらっしゃるようですが」
「様?」
ゴドフリーの言い様に、ヘティーは引っかかるものがあった。
「あの方は、風の国の王子であったのです」
「……それは本当ですか?」
「ああ、俺達も最近知って驚いたんだが、その時、ゼナス様はここを譲ってくれたんだよ」
「せやせや、うちらもホンマびっくりしたわ」
モーリスとユニケも真実味のある説明をする。
「……とにかく、ゼナスさんに会いに行った方が良さそうですね」
「よろしければ、ホプキンズ達も一緒に行かないかね?」
「と言うより、行きましょうよぅ」
「乗った!」
リョウとキリコの誘いに、ホプキンズ達は賛同してくれた。
「じゃあ、行きますね。風の国に」
自還魔法を使うために、ヘティーは準備を始めた。
そして、ヘティー達は風の国へと舞う。

その頃、アサトは、バーナバスに来ていた。
しかも薄暗いダンジョンの中だ。眼前にはドゥーガルド=ネルーダがいる。
「……よう、ドゥーガルド。相変わらず呼び出すタイミング最悪だな。チェリーと同じで」
「お久しぶりだね、アサト君。実はまた、手伝ってもらおうと思って」
「馬鹿かお前はッ!? この平和な時に、いちいちプラズマセイバーなんて持って来てねぇよ!」
「大丈夫」
すっ、とドゥーガルドが一振りの剣を取り出す。
かなり鋭利な刃が眩しいまでの光を放つ、大きい剣。
しかも、かなりの長剣で、ざっと170センチといったところか。
はっきり言って、アサトの身長よりも長い。
「おいおい、こんな大剣、俺に扱えるかっての」
「持ってみて」
アサトがその剣を持つ。
しゅるしゅるしゅるしゅる……
すると剣はたちまち縮んで、アサトに丁度いい大きさの剣になった。
「おおっ、凄ぇ!」
「マジックウェポン、ズームソードだよ。持ち主の体格を読み取り、
 その大きさを変える、特殊な剣だ。きっと役に立つ」
「へぇぇ……」
ただ感心するアサト。相変わらずドゥーガルドの所持しているアイテムは、
得体こそ知れないものの、実用的な物が多い。
冒険者故の性癖と言ってもいいだろう。
「ここではそれを使ってくれ」
「おう」
二人は、ダンジョンの奥深くへと足を踏み入れる……
すると、いきなり大型のモンスターがいた。
見た目は熊のようだが、大きさは日本に生息する熊のそれより、やや小さい。
しかし、それよりは俊敏そうだった。
また、その目つきは尋常ではない。というか目の形が普通の生物のそれではない。
「ぐおおおおおおおおおおおおおお!」
大きな叫びをモンスターがあげる。
物凄い勢いでアサトの方に突進してきた。
「うっ、うわっ!」
ドゥーガルドは何とかかわしたが、アサトの方はまともに熊もどきの
攻撃を正面から受け止める事になった。
熊もどきの爪とズームソードが鍔迫り合いを繰り返す。
スピードはわずかながらアサトが上だが、力の面で圧倒的にアサトは不利だった。
「おおっ!? おおおおっ!?」
アサトは、正直驚いた。よくよく考えたら、まともな知能を持たない相手との
戦いは、初めてだった。正確には二度目だが、一度目は、
アサトが手を出す前にブリジットが軽く一蹴してしまったので、
きちんとした戦いはこれが初めてである。
(せめてプラズマセイバーさえありゃあ、互角以上にもなろうというものを!)
アサトは、ゼナスに習った全てを叩き込む覚悟を決めた。
「中火力ファイアボール、発射!」
洞窟の中での使用に問題ないと思われるレベルで何とか覚えた魔法を放つアサト。
ごわぁぁっ!
「が?」
「嘘っ!?」
アサトの魔法は全く通じていなかった。
ひるむ様子すら見せず、軽く炎を振り払う熊もどき。
「グラビティ・ボール。いけっ!」
ドゥーガルドが以前使っていた、重力球を熊もどきに向かって投げる。
「グラビティ・プラス!」
熊もどきの頭上で重力球に強烈な重力をかけて、ぶつける。
ごっ!
「ぐおおおっ!」
さすがの熊もどきも、これはかなり痛かったのか、のたうち回る。
その際に振り回す手足の爪がアサトの方にも振り回され、非常に危ない。
「うわったったったっ! おい、ドゥーガルド! ゼナス呼んでくれ、ゼナスを!
 ガートルードのゼナス、覚えてるだろうが! もう俺達じゃ手に負えん!」
「わ、分かった。ちょっと待ってて!」
しばらくすると、ドゥーガルドの近くにゼナスが正装で現れた。
「うぉっ!? 何だここは!? あっ、お前いつぞやの竜人!」
「ドゥーガルド=ネルーダです。ちょっと手伝って下さい!? アサトさん危ないです!」
「アサト!? アサトがここにいるのか……あっ、いた!」
熊もどきに足を掴まれて、振り回されているアサトがゼナスの眼前にいた。
「やれやれ……久しぶりに会ったと思ったらこんな所で何をしているのやら」
ゼナスは軽く頭を抱えた。

その頃、ガートルードでは、ヘティー達一行がいよいよ本格的に困っていた。
ゼナスが城にいないと分かったからである。
「で、いきなりゼナス王は消えた、と?」
ホプキンズが大臣に質問する。
「そう、我々も全員で大捜索をしておるところだ。よろしければ、
 貴殿らに異世界の方の心当たりを探してもらいたい」
「分かった。じゃあ、グリフィンと一緒にルーファスでも見てくるとするか」
「頼む」
チェリー達は城を出た。
「じゃあ、どこの世界を探すんだ?」
「とにかく、バーナバスにでも行くとしようか」
ゴドフリーの意見により、一行はバーナバスへと向かう事になる。
「じゃあ、行きますわね。バーナバスにはアサトさんの波長が感じられますわ。
 彼に会ってみれば、何か手っ取り早く分かるかもしれませんね。行きましょう」
「おう!」
ヘティーが自還魔法を使う。
しかし、誰も気が付かなかった。
その直前にリョウとキリコがメイヴィスにいるシノに召喚された事に。
そして、その巻き添えを側にいたモーリスとユニケが食らっている事に。

一方、メイヴィスにいるシノはリョウとキリコの波長を掴み、召喚したまでは良かったが、
モーリスとユニケが一緒にいる事に驚いた。
「うぉっ!? ここぁどこだ!?」
モーリスがさすがに驚く。ユニケもほぼ同様のリアクションだった。
だが、驚いたのはシノも同じだった。
「も、モーリスさんにユニケさん!? 何故父さん達と一緒に!?」
「あかん! ホプキンズ達とはぐれてもた!」
ユニケが慌てる。
「実はな、シノ」
リョウが説明を始める。
「いきなり召喚されたと思われるゼナスを探しに、バーナバスに行こうと、
 ヘティーやホプキンズ達と一緒に、行動をしていたのだ。
 そこにお前の召喚が割り込んできて、モーリス君にユニケ君を巻き込んだのだ」
「ご、ごめんなさい……モーリスさん、ユニケさん」
「あ〜、ええてええて。シノちゃんはかわええから許したる」
「……そういう理由か?」
モーリスが冷静に突っ込みを入れる。
「とにかく、皆さんはバーナバスに向かわれたのですね?」
シノは確認する。
「そうよぉ〜。シノちゃん、急がないと、また厄介な事になっちゃうわよ?」
「分かりました!」
急いで全員を近くに寄せて、自還魔法を使うシノ。
目的地は、バーナバスである。

それよりしばらく前、ルーファスにいるチェリー達は、本来の目的を思い出した。
「とにかく、アサトさんを呼び出さないと始まらないわね。
 波長はバーナバスの方で感知できたわ。すぐ呼び出すわよ!」
「うん!任せて、姉さん!」
「頑張って下さい、グリフィンさん」
ブリジットが無責任極まりない応援を飛ばすが、気にしない方が勝ちだ。
グリフィンがアサトを召喚すると、ゼナスが一緒に付いてきた。
「うぉっ! ここはルーファス!? チェリーか!?」
「こっちは立て込んでいるのだ! 勝手に呼び出すんじゃない!」
アサトは驚き、グリフィンの姿を見て、ゼナスは怒鳴る。
「お師匠様〜、お久しぶりです〜」
ブリジットがのん気に挨拶などしている。ゼナスの話を全く聞いていない証拠だ。
「とにかく、すぐにバーナバスに行かないと!」
「で、でもあたしバーナバスなんて知らないわよ?」
「僕もです」
「あたしもです〜」
もちろん、それぞれバーナバスに行った経験等無いので、当たり前である。
「俺も行った事は無いが……おい、グリフィン。ドゥーガルドの波長は覚えているか?」
「あ、ハイ」
ゼナスの問いに、グリフィンがあっさり答える。
「では、それを目当てに行くしかあるまいな。そして向こうに着いたら俺達を呼び出せ」
「分かりました!」
グリフィンが、バーナバスのドゥーガルドの元に先行する。
「頼むぞ、グリフィン……」
ゼナスの重い一言がルーファスの空に響く。

一方、さらに時は遡り、ドゥーガルドはひとりぼっちにされていた。
「ア、アサト君!? ゼナスさん!? おーい!
 ちょっと、こんなピンチでひとりぼっちにするなよーっ!」
もうドゥーガルドは逃げまくるしかない。
しかし、そこに救いの手が差し伸べられた。
ホプキンズ、ゴドフリー、ヘティーが現れたのだ。
ただし、逃げ回るドゥーガルドの目の前に、だが。
ごがしゃっ!
「きゃ!」
ドゥーガルドは、ヘティーと正面衝突する。
よろけるどころか、思い切り倒れそうになるヘティーをゴドフリーが支える。
「す、すみません」
「なんのなんの。このようなご老体の腕で良ければ、いつでも支えて差し上げますぞ」
「って、モーリス達はどうした!?」
転移するや否や、いきなり襲いかかってきた熊もどきと格闘戦を繰り広げながら、
ホプキンズがヘティーに詰問する。
「どうやら、直前に誰かに召喚されたみたいですわね……どうしましょう?」
しかし、そこに、リョウ、キリコ、シノがモーリスとユニケを連れて転移してきた。
「覚えのある波長を追ってみたら、大正解……ですね」
「そういう事らしいわねぇ、ただちょっとドンパチやってるみたいだけどねぇ」
シノの言葉に、またもやのん気に受け答えするキリコ。
「ホプキンズ、ゴドフリー!」
「おお、モーリスではないか! ユニケも!」
ゴドフリーがモーリスとユニケの存在を確認し、安心する。
「すまんなぁ、シノちゃんがリョウさん達呼び出した時の巻き添え食ろうてもうてな」
「構わん。それより、早く助けてやらんと、ホプキンズとて危ないぞ?」
段々ホプキンズが力負けしているようだった。ドゥーガルドも必死の援護をしている。
熊もどきは、段々と力を込めてホプキンズを押さえ込もうとしている。
「よし、行こう! リョウさんとキリコさんはそこら辺にすっこんでな!」
モーリスが軽く指示を送る。
「うむ、戦いに関しては君達の方がプロのはずだからな、任せる」
「行くわよ、あなた」
リョウとキリコは大人しく退いた。
「では、行こう、モーリス、ユニケ、それにヘティーさんにシノさんも……いいですね?」
「おう!」
「ええで!」
「こちらもよろしいですわ!」
「では、行きましょう! ホプキンズさんとドゥーガルドさんの援護をします!」
「ドゥーガルド……あの竜人の名前ですな」
確かに、ホプキンズ達はドゥーガルドとは初対面である。
だが、この状況において、それは割とどうでもいい事だ。
一同は、援護に回るべく、ドゥーガルドのいる位置の
先にいる熊もどきに向けてダッシュを始めた。
どんっ!
「きゃ!」
「わっ!」
最後尾のヘティーだけが、突然ドゥーガルドの近くに転移した
グリフィンと、正面衝突した。
「いたた……あっ、ヘティーさん」
「……私って、こんな役回りばかりですのね……」
よろけながらも立ち上がるグリフィンに対して、
頭を抱え、涙目でまだ倒れているヘティー。
さすがに今回のは痛かったようだ。
後ろ向きに倒れて後頭部をまともに強打すれば当たり前である。
「だ、大丈夫ですか?」
(お父様……お母様……私、少しめげそうですわ……)
くすん、とちょっぴり泣きながらも、
グリフィンに手を引かれ、起き上がりつつそう思うヘティーだった。
もちろん、ドンパチどころではない痛みが彼女を襲う。
どうやら、このダンジョンの床は硬質の岩盤らしい。
余談だが、この時の話を後に彼女はこう語る。
『アサトさん達と戦った時より酷い目に遭いましたわ』と。
「さあ、ヘティーさん! 行きましょう!」
「ちょ、ちょっと待っ……痛っ!」
グリフィンに無遠慮にぐいぐい腕を引っ張られて腕まで痛む。
もちろん、頭のズキズキ感は余計に酷くなるばかりだ。
「あっ!」
ずっ!
そのせいで、ヘティーは思い切り走った勢いでつまずき、
グリフィンもろとも前倒しで転倒する。
ごっ!
グリフィンはヘティーの手を離し、受け身をとったが、
ヘティーはもろにおでこを打った。
「もう! 先、行きます!」
そんなヘティーを置いて、グリフィンはいまだ激戦中の熊もどきの方向へ向かって
一直線に走り出す。面倒を見切れなくなったのだろう。
(ただ、その原因もグリフィンだが)
しかし、ふと思い立って、アサト達をすぐ呼び出す。
呼び出すように言われていたのをようやく思い出したのだ。
「え〜と、アサトさん、ゼナスさん、姉さん、ブリジットさんを……召喚!」
実にいい加減な条件式で召喚を行うが、うまくいくのが不思議である。
アサト、ゼナス、チェリー、ブリジットが遅ればせながら召喚され、
ようやく全員が集結した。ただし戦いの場で、だが。
「遅い、グリフィン!」
「ごめんごめん、姉さん。ちょっとゴタゴタしてて」
チェリーの怒りをさらっと流す辺り、さすがは姉弟である。
「早く行きましょう〜」
「ブリジットの言う通りだ、行くぞ、グリフィン!」
「はい!」
ブリジット、グリフィン、ゼナス、チェリーはすぐさま熊もどきへと突撃する。
しかし、アサトはうずくまっているヘティーを見て、立ち止まった。
「ヘティー……お前、何してんの?」
「あ、アサトさん……いやですわ、こんな姿をお見せしてしまって、みっともない……」
そこまで言った時点で、ヘティーの額から血がたらりと流れる。
「おいおい」
アサトは苦笑して、自分のバンダナを取り出し、包帯代わりに
ヘティーの頭に巻く。
その結果、あっさりと止血ができた。
「あ、ありがとうございます」
「案外ドジなのな、お前。こんな所ですっ転ぶなんてよ」
「す、すみません……」
頬を赤らめる彼女。どうやら素は運動音痴の面もあるらしい、と
勝手に解釈するアサト。
もちろん、原因がグリフィンなのは本人達だけが知っている。
「それより、すみません。アサトさんのバンダナを……大事な物では?」
「ああ、大丈夫。シノにもらった奴だが、あいつもきっと許してくれる」
「……信頼していますのね?」
「そんなんじゃねぇさ。当たり前の事だからな、ほら、行こう。
 もたもたしてっと、ドゥーガルドがやられっちまうぞ」
「はい!」
「よし、いい返事だ」
ヘティーとアサトは遅れて熊もどきへ突撃する。
「援護します!」
「くたばりやがれ、熊もどきがぁぁぁぁぁっ!」
しかし……
「ごぉぉぉぉぉ……ぉぉ……お!」
ずぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!
熊もどきは、そこまでアサト達が言った時点で倒された。
「おぉいッ!? 俺達の分は!?」
「無い」
ぶっきらぼうに答えるゼナス。
「遅かったようですな」
さらに駄目押しの一言を放つゴドフリー。
全員がアサトとヘティーに文句を言う。
グリフィンだけは何だかバツが悪そうだったが、全員それどころではない。
しかし、アサトには見えた。
いまだもぞもぞと動き始める熊もどきの攻撃態勢が。
「どけお前等! ズームソード!!」
アサトはズームソードを投げ刺した。
どしゅっ!
熊もどきがもがく。
「ごぁぁぁあぁぁ……」
「ゼナスとどめだ! その剣を握れ!!」
「あ、ああ!」
ゼナスは一瞬とまどうが、すぐに刺した剣を握る。
すると、ズームソードはゼナスの体格に合わせて大きくなり、
より熊もどきに深々と突き刺さる。
やがて、熊もどきは完全に動かなくなった。
「全く、しぶとい奴だ」
ゼナスはあっさりとその大きくなったズームソードをアサトに投げ返す。
「助かったぜ、アサト」
「なあに、ホプキンズのおっさんもいい加減年なんだからちったぁ若いモンに任しとけよ」
「ぬかしやがったなこのガキャ!」
「ちょ、ちょっとやめてくれホプキンズ!」
アサトはホプキンズに散々小突かれた。
「もういいのかな?」
「そうみたいよ」
リョウとキリコも顔を出す。
「さて、これからどうしますかね……」
ドゥーガルドは思案顔をする。
「あ、ドゥーガルドさん、ドゥーガルドさん」
「確か……ブリジット=クーパーさんでしたね」
「はいぃ。よろしければ、ドゥーガルドさんもご一緒しませんか?
 魔道世界ガートルードでのお食事会。あたしとグリフィンさんが
 一所懸命作ったお料理で、パーティしましょぉ?」
「いいんですか?」
といいつつも、ドゥーガルドは休憩できて、しかも
異世界の見物ができるだけでも嬉しそうだが。
「大人数のが楽しいですから。アサトさん達もヘティーさんもお師匠様もどうぞ〜」
「おっ、俺達もいいのか? ルーファス料理ってのは
 食った事あるけど、こっちは初めてだな」
「楽しみですね、アサトさん」
「うむ、異世界の料理とやらは楽しみだな、キリコ」
「そうねぇ、楽しみだわぁ」
アサト、シノ、リョウ、キリコの地球勢が期待する。
「ふん……馬鹿弟子のマズいメシもたまには悪くない」
「違ぇねぇ」
「ふむ……(別の意味で)美味しいかもしれませんな」
「はっ、俺の方が美味いメシ作れたりしてな?」
「せいぜい期待させてもらうでぇ、色んな意味で」
「酷いですよぅ」
ボロクソ言うゼナスに、ホプキンズ、ゴドフリーとモーリス、ユニケ。
それに言われまくるブリジットのガートルード勢。
「あんたの料理、久しぶりね、グリフィン?」
「……って言うより、姉さん僕がいない間、何食べてんのさ」
どっちが年上だか分からない会話をするチェリーとグリフィンのルーファス勢。
「……賑やかですのね? ドゥーガルドさん」
「アサト君達がいる時は、きっとみんなこんな感じだろうね。
 私も興味があるな、こんな人達を生むチキューという世界に」
「私知ってますけど、行かないほうがいいですよ?
 チキューは魔法への免疫なんか全く無い世界ですから、
 行っただけでもめ事の種になりかねません」
「そこだけはヘティーさんが羨ましいかな。望めば彼等と会えるから」
少しだけ実のある話をするヘティーとドゥーガルド。
その時、シノがヘティーの額のバンダナに気付いた。
「あら、ヘティーさん、そのバンダナ……」
「すみません、シノさん。私が転んで血が出たからって、アサトさん、
 シノさんのくれた大事なバンダナで止血なんかしたものですから……」
「まあ……大変。痛みますか? バンダナなんていいんですよ?
 それより、必要な物があったら言って下さいね。一応、
 家から救急セットなんか持ってきちゃったりしてますから」
満面の笑みで救急セットを取り出すシノ。
「ありがとう……ございます」
その心遣いが嬉しくなるヘティー。
(本当ですのね、アサトさん……そこまで当たり前なんですね)
ヘティーはなんだか泣けてきた。
自分も過ちを犯す前にこんな絆を結べる相手がいたなら、と
無いものねだりをしたくなってしまったのだ。
「ああああああ。ヘティーさんへティーさん泣かないでぇぇ」
思わず慌てるシノ。
どうでもいいが子供のなだめ方みたいに見えるのが、情けない。
「いえ、嬉しくなりましたの……」
ほっと胸をなでおろすシノ。
「おら、何やってんだシノ、ヘティー。行くぞ!」
「ま、待ってアサトさん!」
「今、行きますわ!」
すぐに自還魔法で、彼等はガートルードへと舞う。

その後、各世界を見て回って、初対面のホプキンズ達とドゥーガルドは
自己紹介もすませ、食事会をして、全員がそれぞれの世界に帰った。

「急がねばな。大臣が心配している」
ゼナスは、自還魔法で風の国へと舞う。
彼の頭の中は、既に国政で一杯だった。彼も、一応国王なのだから。

「ぐぁっはっはっはっはっはっはっ! いやあ今日は楽しかった!」
「ふむ……しかし笑ってる場合ではありませんな、ホプキンズ」
「どうしたってんでぇ!?」
「いえ、大した事じゃないですが、来月分の生活費の見通しが立たないだけです」
「なんだってぇ!?」
「どこが大した事ないねん、ゴドフリーはん!」
モーリスとユニケがゴドフリーに詰め寄る。
「大丈夫だって!」
ホプキンズがどんと胸を叩く。
「新しい仕事口は見つけてきてあるのさ。風の国の衛兵になるのよ、どーんと!」
「おおっ!」
全員が感嘆の声をあげる。
「しかも、出勤用の送還魔方陣をゼナス王に作ってもらっといたぜ!!」
「ほな、こっから通えるんやな!? ホプキンズ!」
「だから心配すんな、ユニケ!」
「おっしゃあ!」
ユニケが一番嬉しそうだ。一番ハイなユニケはゼナスと馬が合う。
不思議な事実とも言えるが、いつでも会えるのが彼女は嬉しいのだ。
「ふむ……忙しくなりそうですな」
そう言いつつも、ゴドフリーも嬉しそうだった。

「はあー……楽しかったですねぇ」
「ですねぇ」
「またやりたいですよね」
「そうだねぇ」
こちらはまったりと暮らしているブリジットとグリフィンだった。
「あ、そうそう。また新しい料理を思いついたんですよ? グリフィンさん」
「あ、それはいいなぁ。また研究しようよ」
「はいぃ」
それなりに幸せである。

「うわぁぁぁぁぁぁっ!」
どたどたどたどたどたどたどた!
「待ぁぁぁぁぁぁてぇぇぇぇぇぇ!」
ドゥーガルドは、相変わらず逃げていた。盗掘団からお宝目当てで。
しかし、これも慣れればいつもの状況。
とても30kg以上の荷物を持っているとは思えないスピードで
全力疾走する。そのスピードは時速23キロにも値する。
だが、彼はこう語る。
『追われるのも冒険の醍醐味だ』と。

「あーあ……ひとりぼっちか」
ずずっ。
お茶をひとすすり。(行儀悪)
「……いけない、急がないとすぐ会議が始まっちゃう」
キャリアウーマン、チェリーの忙しい一日がまた始まる。

ヘティーは、そっとバンダナを大切な戸棚に入れる。
アサトとシノがこのバンダナをくれると言ったのだ。
「……」
だが、ヘティーは思い直して、そのバンダナを髪留めにした。
「行きますわ……」
メイヴィス平定への道を彼女は再び歩み始める。
そう、装いも新たに。

そして朝霞家。
朝人と志乃、涼と霧子が食卓につく。
どん!
そして置かれるジューサー。
「……修理した」
「またですか?」
朝人と志乃が疑わしげに見る。
「はい、あなた」
霧子が差し出すのは、たくさんのフルーツ。
それをぐいぐいねじ込んで、スイッチを入れる涼。
一応、物陰から見る朝人と志乃。
霧子も、やや距離をおいている。
かちっ!
きゅいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
たちまちフルーツがばらばらになり、ジュースになる。
「おおっ! 初めて見た、親父さんのまともな物!」
「凄いです、父さん!」
「やったわね、あなた」
「私にかかれば、この程度は造作も無い」
ぎゅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
物理的抵抗が無くなり、歯止めの効かなくなったジューサーの刃は、
異常な回転を始め、やがて……
バキぃッ!
蓋を砕き、ジュースを飛び散らせ、変な振動の末、
刃だけがプロペラの如く上昇し……
ぐさっ!
天井に突き刺さった。
ジュースでびちょびちょになった四人。
「……おかしいな」
「おかしいのは親父さんですっ!」
「汚いわぁ……」
「制服がぁぁ。父さんの馬鹿ぁぁ」
まあ、何も変わらないのである。


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