悲行少女


第二幕 開花

  また新たなる戦いの予感が巻き起こる。戦場はプライム・シティ。
マリーネ共和王国の重要都市である。食料や工業の重要な拠点なので、
ここを今のうちに取り返さない事には、まったくもって話にならない。
そのプライム・シティへ向かってファーリィ達、マリーネ共和王国軍は、静かに行進していた。
「プライム・シティは……一度だけ行った事があります」
 ファーリィが、横にいたジルヴィクスに向かって呟いた。
「いつの事かな?」
「まだ……父上や母上が生きておられた頃です……
 あの頃のプライム・シティは穏やかで、活気もあり、
 とても賑やかな所だったのに、今では静まり返っているのですね」
悲しげな瞳で、遠くから都市を見つめる彼女の頭をジルヴィクスが撫でる。
「戦時下で、しかも臨戦態勢だからね。
 市民は恐らく、全てシェルターへ避難しているんだろう。
 昔の姿を取り戻したいのなら、今は戦うしかない。
 そうすればすぐにでも……それこそ一週間もあれば落ち着きを取り戻すと思う。
 人は弱くて、汚くて、浅ましくて、どうしようもない生き物だけど、
 そのたくましさだけは賞賛に値すると思うからね」
「……はい」
「さあ、敵影が見えてきたよ……少ないね? あんなに少なかったっけ?」
ジルヴィクスが警戒心を示した。言葉は穏やかだが、
ジルヴィクスの気配から立ち昇るのは、まぎれもない殺気である。
もちろんその対象は見える敵影ではなく、あるかもしれない伏兵に対して、である。
「ファーリィ、すぐにライディング・フレームを着るんだ。
 もう何があってもおかしくない。急いで」
「は、はい」
ファーリッシュは慌てて備品係の所へ走った。
「敵兵の気配がするそうです。私専用のRFをお願いします」
「あ、はい。今すぐに!」
ファーリッシュがRFを装着している間、周囲が慌しく動き始めた。
戦場にかなり接近したため、総員が戦闘準備を始めたのだ。
すでに戦闘は始まっている、と言ってもいい。
「お兄様、状況は?」
ファーリッシュがRFの装着を終えて戻ってくると、ジルヴィクスは走り出した。
「まだ変わりはない。僕もすぐにRFを着てくるから、指揮を頼むよ。
 真似事でいい。今は母さんも父さんも手を離せないんだ。僕が戻るまでの間でいい」
「……やってみます」
ジルヴィクスはRFを取りに備品係の所へ走った。
しかし、その時だった。状況が動いたのだ。
ジルヴィクスは数分は戻ってこない。ここが勝負所なのだ。
敵の主力部隊が動き出した。
「……?」
やはりおかしい、とファーリッシュは感じた。ジルヴィクスの言う通りなのだ。
ここがグライア公国の対外駐留軍最後の拠点であるならば、
もう退くわけにはいかないのに、何故……あの程度の数しかいないのか?
敵影の中に一際目立つディーヴァの姿はいるようではあるが、
それがかえってファーリッシュの不信感を煽る形となった。
ファーリッシュは常人を遥かに凌ぐような辛い目と危険な目に遭っているからこそ、
本能の上での勘が良く働く、という特異な能力の持ち主であった。
その勘が告げていた。真っ向から当たるのは危険だと。
「全軍に通達です。退きます」
「なっ!」
将兵が大混乱し始めた。
「どうされたのです、王女! この都市を制圧すれば、
 領土の三分の二を取り戻す事が出来るのですぞ! 何を躊躇う事がありましょう!」
「……勘ですが、罠です」
「罠?」
「説明は後で。お急ぎ下さい」
「は、はっ! 後退だ、防衛ラインを下げろーッ!」
近くにいた将軍が指示を飛ばすと、総員が速やかに退き始めた。
ファーリッシュも速やかに随行しながら、まだ名前も知らないその将軍に説明を始める。
「見て下さい。ここは市街地の外なわけですが、あからさまな茂みがいっぱいありますね。
 あれら全てに伏兵がいる、とすれば、前進した場合、どうなります?」
「……!」
将軍の瞳が驚愕に見開かれた。自らの半分にも満たない年齢の、
しかも初陣を済ませたばかりの娘に、戦術の何たるかを教えられる事があるとは
思っていなかったようだ。更に言えば、ファーリッシュは王女であり、
自ら戦う事など普通は考えられない人材で、しかも戦場とは
縁遠い生活をしてきたはずであるにも関わらず、である。
「そのまま前進していたなら……八方から攻撃され、良くて確実に敗走。
 悪くて壊滅、いや全滅でしょうな。確かに我々が迂闊でした」
「いえ……私のような若輩者が、軽率な事を言い、軍律を乱した事、お詫びします」
「何をおっしゃるやら。あなたは国の最高権力者ですぞ。
 我々はあなたと祖国のために戦いをしておるのも同然です。
 あなたが白と言えば、黒とて白と言うのが我々の務め」
「それは間違っています。真に国を想うなら、誰が相手であろうと、
 諫言を行うのが真の忠臣たる人物足りえると、私は思うのです。
 間違っていたら遠慮なく諌めて下さい。私一人で戦争なんて出来はしないのですから」
「はっ!」
感服しきった将軍の瞳に、改めて闘志が宿った。
ファーリッシュ王女こそ忠義を尽くすに足りうる人物だと認めた瞬間でもあった。
「茂みを偵察兵にじっくりと観察させろ! 何らかの発見があるかもしれん!」
将軍の命令が飛び、偵察兵が四方八方に飛び散った。

一方、グライア公国側、ディーヴァの陣営では、なかなか進軍して来ないどころか、
いきなり陣を後退させ始めたマリーネ共和王国軍に対して、
主力部隊全員が苛立ちを、伏兵全員が不安を感じていた。
正直、この策を看破されたら、太刀打ちできる自信はまったく無かった。
「ちっ。どうしたもんかねぇ……」
穏やかな口調で喋っているように見えるディーヴァだったが、
手持ち無沙汰に部下の兜をゴンゴン殴っているので、威厳も何も無い。
「敵が偵察兵を飛ばしているようです。伏兵は引き上げた方がよろしいのでは?」
「退いたら退いたで、総攻撃を仕掛けてきそうだからね。出来ない話さ」
「厄介ですなぁ」
「どうせバレてんなら、逆に陣を広げたらどうだい?
 予想外だろうからね。きっと驚くだろうさ」
ディーヴァの何気ないヤケ気味の一声に、将兵が大きく反応した。
「……確かに面白いかもしれませんな。やってみる価値はありましょう。
 驚くという事はすなわち対処が難しい状況です。
 その一瞬で総攻撃を仕掛ければ、あるいは条件を互角ぐらいには持ち込めるやもしれません」
「はぁ……まあバレてる時点で勝機は薄かったしね。
 互角に持ち込めるかもしれないだけでもめっけモンか。世知辛い話だねぇ。
 あんた達、こんな凡将に付き合わせて、毎度毎度すまないね」
「何を仰います。雇われだろうが何だろうが、
 あなたは我々の上官なのですぞ。どこまでも付き従いましょう」
いつになく弱気なディーヴァだったが、将兵もまた見上げたものであった。
日頃、互いに不満を募らせていても、非常時とあらば一致協力できるのは、彼等の美徳である。
「ああ。まあ何とか勝ってみようじゃないか。伏兵に陣を広げるように伝えな!
 見つかったところで構うもんかい! 策が破れたなら奇策で勝負さね!」
「了解です、連絡急げよ!」
伏兵部隊へと指示が飛ぶ。マリーネ共和王国軍の部隊を包囲するため、
円形になって茂みに隠れていた陣が、節操も無く広がっていく。
陣は次第に広がり、薄くはあるが、より広く、
マリーネ共和王国軍を包囲し始めたのであった。

それを聞いて泡を食ったのはファーリッシュ達、マリーネ共和王国軍である。
ジルヴィクスも戻ってきて、指揮権が委任されたまでは良かったが、
こうも危機的状況に陥るとは、ジルヴィクスにも予想が出来ていなかった。
「ファーリィの指示が無かったらとっくに壊滅だな……危なかった。
 君は僕より、もう戦術論を巧みに扱えるのかもしれない。助かったよ」
「いえ……私は皆が無事ならそれで……」
「しかし見つかってから陣を更に円形に広げるとは、また大胆な奇策に出たものだね」
ジルヴィクスは長い溜息を付いた。戦術でファーリィのみならず、
敵にも負けている事には、少なからずショックを覚えていたのである。
「あの……また差し出がましいようですけど、お兄様。私なら……」
「躊躇わなくていい。君の一言で多くの人が死なずに済むかもしれない」
「はい。私なら……更に自軍を後退させ、円形に動きます。
 敵の包囲は広がりましたが、その分薄くなっているように見えますので、
 コンパスで円をなぞるように、敵の円を少しずつ侵食してやれば、
 敵も包囲などとは言っていられなくなると思うのですけど……」
「僕の案は包囲を破って後退してから、再度攻撃だったんだけど……
 そっちの方が部隊が兵力を上手く活かせそうだね。採用しよう。
 全員に伝達するよう、ファーリィの口から言ってやって欲しい。
 その方が早いからね。いつの間にか人心掌握したみたいだし」
「人心掌握だなどと……そのような言い方は好みません。
 分かり合えた、と仰って下されば、私とて少しは喜びますのに……」
「事実としてそうだからね。受け入れて」
「分かっています。全軍に通達。
 更に陣を下げ、密集隊形のまま、敵の伏兵による円形包囲を、
 少しずつなぞる形で伏兵の制圧を始めます。いいですね?」
「既に命令の伝達は始めています。ご安心を」
「ありがとうございます」
ファーリッシュが思っていたよりも、包囲された事による将兵の動揺は少なかったようだ。
やはり重臣たるジルヴィクスがいると、士気も各段に上がる。
名将ガイギャクスの息子とあらば、その期待も大きいはずなのに、
プレッシャーに怖じる様子も無い。だからこそ、
ファーリッシュも同様にプレッシャーに負けずに戦えるのであった。
「さて、勝負ですね。敵の指揮官は何者でしょうか」
「前の奴は、型破りな指揮官だったからね。今回も同じかもしれない。相当な奇策だし」
「ともあれ、お兄様。私達も前線に出ましょう」
「乗り気じゃないかい?」
「そんなのではありません。ただ、少しでも早く終わらせるなら、
 ちゃんと本気をもって戦わねばならない、と思っただけです。
 必要とあらば、自分でも戦います」
「それでもいいよ。でも君自身が戦うのは、僕としては避けたいけどね」
皮肉げに言い、二人は後退中の陣の先頭に出た。
つまりは敵本陣から見て一番遠い位置でもある。
「総員、フォーメーションを『過密集隊形(オーバー・ファランクス)』で組め!
 敵伏兵に向かって突撃! 急げよ!?」
ジルヴィクスが号令をかけると、総員が怒号で応じた。
『オーバー・ファランクス』とはマリーネ共和王国が得意とする防衛用の陣形である。
兵員、特に重装歩兵同士を極度に密着させ、破格の防御力を誇る陣形であり、
薄い陣形で臨んだ場合は、突破はおろか、損耗させる事さえ容易ではない。
RFに対してはほとんど無力の陣形であるが、
逆に歩兵や騎兵に対しては極めて有効な戦法であった。
本来は防御用の陣形であるが、今、敵の陣が薄くなっているのならば、
攻撃用として転用は可能なはずである、とジルヴィクスは考えたのである。
「うおおおああああーッ!」
猛り狂ったように声をあげるマリーネ共和王国軍の、包囲網への侵食が始まった。
これまた予想外の戦法に戸惑い、グライア公国軍は今度こそ
うろたえる以外に出来る事がなくなってしまった。
たちまち飲み込まれるか、良くて逃げ散り、本隊へと帰る程度の事しか出来ないのである。
だがそれら逃亡中の敵兵を無闇に追う事は出来ない。
なぜならこの過密集隊形の弱点は、行軍速度が極端に遅いことだからである。
しかしながら、見事に円形の包囲は崩壊し、
マリーネ共和王国軍の思うがままとなっているのは事実であった。
「敵包囲網、完全に崩壊しております!」
「アイディアは悪くなかったが、うちの王女を甘く見たのが運の尽きってトコかな」
 ジルヴィクスが冷や汗をかきながらも、冷静に報告を受けた。
「やれやれ。これからは戦術を考えるのも一苦労だな」
「どうしてです? お兄様」
「常に君が一歩先を行く事を意識して策を練らなければならないからだよ。
 それほどまでに見事だった。奇策には奇策を、というところかな?」
「いえ、そんな……たまたまです」
「図に乗らないところがファーリィらしいよ。いい子だ」
ジルヴィクスが頭を撫でてやると、ファーリッシュは顔を真っ赤にして反論した。
「お兄様! 私は子供ではありません!」
「二人とも! 仲がよろしいのは結構ですが、まだ戦闘中ですぞ!
 っていうかジルヴィクス殿! 流石に無礼が過ぎますぞ!」
部隊長の一人が流石に見かねたのか、ジルヴィクスに苦言を呈した。
「ごめん。僕とした事が、公私混同が過ぎてたね」
「いいのです。私にとってはお兄様同然ですもの」
「戦闘中だけでも、もうちょっと緊迫して下さい!」
「すみません……」
ファーリッシュが再度怒られてしゅんとする。が、浸ってもいられない。
「来ます! 敵本隊です!」
円形包囲を早々に解いて、敵も密集隊形を組んできた。
こうなれば後は正面からぶつかるのみである。ガイギャクスもユニアもいないが、
だからこそ奮戦せねばならない。
「策のぶつかり合いはこれで終わりです。正面からいきます!」
ファーリッシュの号令に反応し、両軍とも突撃を開始した。
戦場の轟音が天空をも貫くような勢いで響き渡った。
ファーリッシュには、まだ慣れる事の出来ない、嫌な音である。
「敵RF兵、急速接近!」
「こちらのRF兵を出して下さい! 敵歩兵や騎兵は無視して、
 RF兵のみを狙って、両軍の無駄な被害を抑えるのです!」
ファーリッシュの指示が飛ぶ。ジルヴィクスがまた驚いた。
「敵の被害も抑えるのかい?」
「ええ。死人は少なく、戦果は大きく、が戦術の基本です。
 RF兵の一方的な攻撃による被害は、両軍共に避け、
 勝った時に接収できる部隊を出来るだけ多くしたいですから」
「なるほど。確かに大南洋条約がある以上、ライディング・フレームは
 ほぼ一方的に歩兵を屠れる、あまりにも凶悪な兵器だからね」
「お兄様も出て下さい。私も飛びます」
「気持ちは分かるが、先走り過ぎだ。君が出るのはあくまで非常時のみだよ」
「私としてもその方がありがたいですけど、あの時と指揮官が同じなら、
 きっとそんな余裕は与えてくれません。だからこそ出ます」
「分かった。ならせめて僕が随行しよう」
ファーリッシュは頷くと、ジルヴィクスよりも先に飛翔した。
ジルヴィクスもやや遅れて飛翔。二人揃っての息の合うフライトが始まった。
戦場は既に狂乱のるつぼと化しており、敵のRFが今にも自軍の歩兵に、
チェーンソードを向けて襲いかかろうとしていた。
「させません!」
敵RF兵に向けて、ファーリッシュが真っ先に躍り出た。
チェーンソードを右義手に持ったまま、その右義手をワイヤーアームとして射出したのである。
驚愕したRF兵は、断末魔さえあげる事なく、唸りをあげる
ファーリッシュの放ったチェーンソード付きの義手に、胴体を両断され、無残に墜落していった。
「あ……」
敵を殺したという事実が、瞬間、ファーリッシュを惑わせた。
戦争の中とは言え、初めて人を殺したファーリッシュに、
それを喜ぶ事など出来るはずもなかった。
しかし戸惑いもまた、許されなかったのである。
「よくもやってくれたな! 小娘!」
不意打ちのような形で仲間を撃墜された事に、敵のRF兵達が激昂したのである。
敵RF兵は一斉にファーリッシュ一人めがけて襲い掛かってきた。
「離脱を……!」
対応が遅かった。離脱が間に合うかどうかは際どい。
危ういところで第一撃をかわし、第二撃を左義手のワイヤーアームで払いのけた。
「ファーリィ! 危ないぞ!」
ジルヴィクスと味方のRF隊がようやく合流してきた。
ファーリッシュはフル・ブーストをかけてきたために、
ややジルヴィクスのRF隊を引き離してしまったようである。
「ウチの王女に何をする!」
「下郎どもめ! 狼藉は許さーん!」
雄叫びを発しつつ、チェーンソードやチェーンランスを各々構えて、
味方と敵のRF兵が空中戦を始めた。前回、敵から接収した
ライディング・フレームが多少ながらもあったので、RF兵の数は敵より圧倒的に多かった。
そのおかげもあってか、敵のRF兵は次々と撃墜されていく。
「大丈夫かい、ファーリィ? 気が急いているのは分かるけど、焦りすぎだ」
「お兄様……私……人を……殺……し……」
震えるようなファーリッシュの声から、脅えを感じ取った
ジルヴィクスの行動は、ただ一つだった。
パン!
平手打ちで、ファーリッシュの頬を叩いたのである。
「落ち着いて下さい、王女」
「ジル……ヴィクスお兄様?」
可愛がられた事はあっても、叩かれた事など一度も無かった。それは衝撃だった。
「ご無礼を承知で、諫言申し上げます。敵兵を屠る事は
 戦場で起こりうる当然の出来事。それを気に病んでは、統一は成せません」
「はい……ですが怖いのです。私の力はあまりにも強大に過ぎるのではないでしょうか。
 私は、このままただの殺人機械と化していくのではないかと思うと。怖くて……」
「あなたが、その優しさと悲しみと恐れをを背負い続けていくのであれば、
 慣れる事はあれど、戦場の負の力に呑まれる事は、まずありません。
 どうか、正気を保たれますよう」
ジルヴィクスは、ゆっくりと諭すように語りかけた。
「分かりました。でも初めてですね。ジルヴィクスが私を叱って、叩いて下さったのは。
 正直驚きましたが、普通の兄妹のようだな、とかえって安心致しました」
「ご無礼をお許しあれ、王女。叩かれも殴られもせずに
 一人前になる者など、ほとんどおりませぬ故に、やむを得ず……」
「その諫言、生涯忘れ得ませんよ、ジルヴィクス。覚えておきます」
「はっ、光栄です」
ファーリッシュは戦場を見やった。
敵のRF兵がいなくなった事で、敵からの歩兵に対する一方的な虐殺は避ける事が出来た。
制圧も少しずつではあるが、順調に進んでいる。
このままでいけば、充分に敵全体を制圧する事が出来るだろう。
懸念材料は唯一、まだ出てきていない敵将の事であった。
「敵将は、どこに……」
ファーリッシュがRFをアイドリングのまま静止させ、空中待機しつつ周辺を見渡す。
ジルヴィクスや、随行するRF兵もそれに従った。
その時だった。敵騎兵の中に、やたらと派手な色彩の鎧に身を包んだ女性が、
いきなり馬から降り、突如飛行を始めたのだ。
「木を隠すには森の中! 将を隠すには兵の中だぁぁッ!」
ディーヴァだった。彼女が叫びながら奇襲を仕掛けてきた。
フル・ブースト状態であり、狙いはファーリッシュただ一人。
素晴らしく思い切りのいい作戦であった。
「何ぃッ!」
ジルヴィクスも対応が遅れた。何とか凌ぎきらなくてはならない。
危険ではあるが、おおむね予想通りの状況であった。
「ファーリッシュ王女、覚悟ーッ!」
「……ッ!」
ファーリッシュは武器を持たない左義手をワイヤーと共に射出した。
敵の腕を掴んでまたバランスを崩し、あわよくば武器を取り落とさせれば、と思ったのだ。
だが、二度も奇襲に引っかかるほどディーヴァは弱くはなかった。
ディーヴァのチェーンソードが唸りをあげ、ファーリッシュの胴を寸断しようと狙ってきた。
ファーリッシュもすぐに回避態勢に入ったが、遅かった。
しかし回避運動に入っただけ狙いがずれたのか、幸い右義足を両断されただけで済んだようである。
「あうッ!」
ファーリッシュが瞬間、バランスを失いかけるが、擬似神経系を寸前でカットし、
痛覚を感じる事なく、右義足は真下へと落ちていった。
「まだです! この程度で!」
「なんでさ!」
ディーヴァは、足を切断されたというのに、大して痛がりもしないファーリッシュに、
何やら理不尽なものを感じたようだった。義手があるのは知っているが、
足が義足なのは知らないようである。それも当然である。
敵陣営でこの事実を知っているのは、ファーリッシュの四肢を切断した、
カイゼル帝国の兵士本人と、同国最高幹部レベルの者のみだからだ。
当然この事件に関わっていないグライア公国陣営のディーヴァが知っているはずもない。
「ファーリィ、無茶をするなッ!」
ジルヴィクスがファーリッシュの加勢に入った。
いや、ジルヴィクスだけでなく、全てのRF兵が、ファーリッシュ王女の直接護衛に入った。
もはやこれでは奇襲は不可能であり、手を出す余地などありはしない。この時に勝敗は決した。
「お名乗り下さい、グライア公国の指揮官殿。
 私も改めて名乗りましょう……私はファーリッシュ=アーバン=マリーネ。
 不本意ながら、マリーネ共和王国の最高権力者らしいです。あなたは……?」
「ディーヴァ……グライア公国の雇われ将軍、ディーヴァ=ニールセンさ。
 わざわざ戦いを中断してまで、何を話そうってんだい?」
「即時撤退を要求します。私達の目的は領土の奪還。
 あなた方をわざわざこの場でどうこうしようなどとは思っておりません。
 即時撤退していただけるのであれば、グライア公国の将と兵、
 共に追うような真似はしません。お願いします、ディーヴァ将軍」
「……いいだろう。ただし、あたしとの一騎討ちに勝ったらだ」
「……やむを得ないようですね」
「よすんだ、ファーリィ!」
勝手に話が進むのを、ジルヴィクスやRF兵達が止めようとする。
「両軍の被害を最小限に留めるためなら、このような重責、受けてみせましょう」
「一騎討ちなど必要ない! 僕達が敵を制圧すれば済む話だろ!」
「手負いの獣を追い詰めれば、死力を尽くしての戦闘となります。
 後の事を考えれば、その方がいいのです。では、いきます!」
「待っ……」
ジルヴィクスの言葉を聞かずに、ファーリッシュは右義足が無い状態のまま、
RFを動かし、空中戦を始める。ディーヴァも再びチェーンソードを唸らせた。
「くっ、こうなったらやむを得ないか。両軍とも! 一時戦闘を停止されよ!
 これは我等がファーリッシュ王女と、グライアのディーヴァ将軍の命令である!」
ジルヴィクスがファーリッシュの意見をやむを得ず尊重し、
あらん限りの大声で戦闘を停止させるように、戦場中を飛び回った。
その声に応じるように、戦場の喧騒が静寂へと移っていく。
敵味方の全ての将兵が、ファーリッシュとディーヴァの空中戦に見入っていた。
ディーヴァが斬りつければファーリッシュがかわし、
ファーリッシュがワイヤーアームを射出すれば、ディーヴァはそれを腕で払いのけた。
まさしく、激闘と呼ぶに相応しい状況であった。
凄まじい技量同士の戦いに、誰も割って入れなかった、というのが正しいかもしれない。
「小娘が! 鬱陶しいのさ!」
「他所の国を、人のいない間に勝手に制圧しておいてその言い草は何です!」
ファーリッシュは王女として、ディーヴァは指揮官として、
口論も同時に展開されていた。いや、口論というよりは舌戦である。
「この惑星ノアが真の平和を迎えるためには統一が必要さ! あんたも分かるだろ!」
「皆は私がそれに相応しいと言います! だからこそ私は戦うのです!」
「主体性も何もないクソガキが何を偉そうに!」
「あなたこそ、戦争屋の身で偉そうに!」
「戦争屋の何が悪い! 軍事力無くして統一が成せるものか!」
「それだけで統一が成せるものでしょうか!」
チェーンソードの鍔迫り合いを繰り広げながらも、舌戦は止まらない。
「相応の力量を持ってから挑んできな、チビ!」
「マリーネの宮廷剣術を甘く見てもらいたくはありません!」
「宮廷剣術なんて、お偉いさんのままごとさ、実戦で通じるもんかい!」
「まあ! 失礼な!」
鍔迫り合いをやめ、ファーリッシュはまたも距離を取ろうとした。
しかしディーヴァは徹底的に食らいつこうと、接近を試みる。
「おやめ下さい! 死にたいのですか!」
「どうせこのまま戻れば処罰は免れやしない! だったら今死んでも同じだっての!」
その言葉を聞いた瞬間、ファーリッシュが
見たことも無いような怒りの形相で、ディーヴァを睨みつけた。
「あなたのような人がいるからッ!」
ファーリッシュはチェーンソードを、事もあろうかディーヴァに向かって投げつけた。
予想外の攻撃に、ディーヴァは慌ててチェーンソードを切り払う。
だがその対応の遅れが致命的な隙を招いた。
チェーンソードが無くなったファーリッシュの素早さは並外れていた。
ファーリッシュは左義手をワイヤーアームで射出、すぐさま右義手も射出した。
ファーリッシュの左義手が、ディーヴァの右手を掴み、
衝撃によってチェーンソードを取り落とさせた。
「しまった!」
ファーリッシュは、右手のワイヤーアームを限界まで伸ばして、そのまま鞭のように振りかぶった。
パァン!
ワイヤーアームを利用した強烈極まりない右義手のビンタが、ディーヴァの頬を叩いた。
更に左右の義手のワイヤーを巻き取り、気を失いかけたディーヴァを引き寄せた。
そして、ファーリッシュはギュッとディーヴァを抱きしめた。
墜落死しないようにしたのである。あまりの痛みに朦朧とした意識で、
ディーヴァはかろうじて喋った。
「く、やはり負け……たみたい……だね……」
そこまで喋った時点で、ディーヴァは驚いた。
ファーリッシュが子供のように泣いているのだ。
ディーヴァが落ちないように、非力な腕力で懸命に抱きしめながら。
「なんで……泣くのさ……あんたは……勝ったんだよ……?」
「あなたが自分の命を大事にしないからです!
 分かってくれないのでしたら、私は何度でも泣き、
 何度でもあなたの頬を引っぱたいてお仕置きして差し上げます!」
なんだか自分の妹か、あるいは娘か何かに説教を食らったような印象を受けて、
ディーヴァは、ただただ困惑するばかりであった。
「分かったよ、分かった。もうあんな痛いビンタは食らいたくないからね。
 大人しく撤退しといてやろうじゃないか。大層こたえたモンさね」
そのセリフにようやく納得したのか、
ファーリッシュは涙を拭い、ディーヴァを解放したのであった。
「野郎共! 悔しいがこの戦い、あたし達の負けだ! 引き上げるよ!」
「致し方ありませんな、了解です!」
「引き上げだーッ! 総員に伝達を急げーッ!」
 ディーヴァの指示が全軍に伝わり、グライア公国軍は撤退を始めた。
「ありがとうございます。あなたの英断によって、
 両軍とも、多くの将兵が死なずに済むのです。
 私はその英断に、心より敬意と感謝を表明します」
「言うじゃないか。だがあたしは処罰は免れないだろう。
 それがどういう意味を示すのか、あんたにも分からなくはないだろう?」
良くて解雇、悪ければ即座に処断されるのである。
それぐらいの事は、ファーリッシュにも分かっていた。
だがそれでも、無駄に多くの将兵を死なせるよりは、まだマシだった、というだけの話である。
「敗戦の責任は、あなたが一人で負う事になるかもしれません……
 しかしそれでも、私は将兵を無駄に死なせる戦い方にだけは
 賛同出来ません。それだけ分かって下さい」
「それはあたしも同じだ。あんたとは、欲を言えばまた生きて会いたいもんさね。
 それだけが、今のあたしの心残りさ。じゃあな」
ディーヴァは振り返りもせずに、撤退するグライア公国軍の中心に戻って行った。
とりあえず安堵したファーリッシュは、着地を試みる。
しかし、うっかり義足が両断されていたのを忘れていたファーリッシュは、
着地するなり、そのまま倒れようとした。
そこに、ジルヴィクスが手を差し出し、速やかに助け起こした。
「ふう……あまり無茶をしないでくれよ、ファーリィ。
 流石に義足を斬り落とされた時は、かなり肝が冷えたよ」
「ごめんなさい、ジルヴィクスお兄様。あと……私の義足はどこに?」
「あれだけ破壊されれば、修理より交換が必要だよ。
 一応、そんな事もあろうかと、予備はいくつか用意してあるしね。
 すぐ馴染むといいんだけど」
「ワイヤーギミックは付いていますか?」
「勿論。最初から量産を前提にしてるしね」
「助かります。正直、あのワイヤーに何度命を救われたか分かりません。
 もうあれが無ければ、不安ですからね」
「分かってる。座っていて。すぐ持ってくるから」
「ありがとうございます」
見ると、部隊の大半以上が市街地に入っており、制圧が始まっていた。
ほどなく奪還作業は完了するであろう。これで領土の三分の二が戻ってくる形である。
足が無い感覚は一度慣れたものではあったが、普段は義足に頼りっ放しのため、
あまり感じずに済んだ感覚でもあり、やはり所在無げに思うものである。
ほどなく、義足と、かかりつけの医師が現れた。
義足の交換作業はすぐに終了し、またすぐにファーリッシュも立ち上がれるようになった。
義足の型はまったく同じなので、馴染むのにまったく時間は要らない。
「これで、また同じように動けますね」
その時、見慣れた人影が姿を現し、一言声をかけてきた。
「それは良かった。何とか無事なようだな」
ガイギャクスとユニアだった。別方面での任務が済んだのだろう。
「ガイギャクス、ユニア。一体どこへ行っていたのです?」
「残党の捕縛やら何やらの指揮でな。こっちではその必要も無さそうだが」
「そうそ。敵が見事に撤退してるじゃない。ファーリィ、何したの?」
ジルヴィクスが代わりに返答する。
「是非見せたかったよ。敵の指揮官にビンタだからね。面食らって帰っていったんだ」
「ビンタ? 何だそりゃ?」
「ワイヤーアームを駆使した射程距離五十メートルのビンタ。
 強烈だったよ、音とかね。あれ食らったら、遠心力で母さんなんか一発で気絶確定だね」
「うわぁ……凄く痛そう」
「そこまで行くと、一種の必殺技だな」
流石にちょっと痛い想像をしたのか、ガイギャクス達は顔をしかめた。
「でも、分かってくれました。おかげで無駄な犠牲は出ずに済みます」
「そうか。だが義足を斬られたのは感心しないな。
 敵が強かったのかもしれんが、王女は極力、戦場の……しかも前線に出るべきじゃない」
「私がいなければこの解放戦争が成功しないのは分かりました。
 でも皆の影に隠れて脅え、何もしないのであれば、
 私には壊れた剣一本ほどの価値もありませんから」
「気負い過ぎるな。自らに滅びを招きかねないぞ」
「……無理な相談です」
憂いを帯びた瞳が潤む。やはり重い宿命に変わりはない。
ファーリッシュは卓越した技量を持っているが、やはり本質的に戦士ではないのである。
「もう少しジルヴィクスを信用してやれ。俺には奴が哀れでならん。
 武人でありながら、度々、武技で王女に出し抜かれるその心中は、察するに余りある」
「あっ……!」
ファーリッシュは今、改めて気付いた。
ジルヴィクスが誰のために戦っているのかを。
それを省みず、敵将と一騎討ちなど繰り広げた自らの浅慮を恥じた。
「構わないよ、父さん。僕がファーリィに出し抜かれるのは、僕が未熟だからだ。
 だから僕は強くなって、ファーリィを……王女をちゃんと守るんだ」
「いい返事だ。その意気だぞ、ジルヴィクス」
「ああ」
ファーリッシュは、親子の交流を暖かな気持ちで見つめた。
戦場でのこういう人間味のあるやり取りは、数少ない癒しの時間である。
こういう時間を大切にしていこう、と改めて誓っていたファーリッシュであった。
「ファーリィ、終わったみたいよ、制圧作業」
 見ると、プライム・シティにマリーネ共和王国の国旗が立てられている。
完全にマリーネ共和王国軍の管轄下に入った証拠であり、
解放戦争が一つの節目を迎えた瞬間でもあった。
これでグライア公国軍は、完全にマリーネ共和王国より立ち去ったのだ。
「次はカイゼル帝国の制圧した領土だね。これが成功すれば、
 マリーネ共和王国は昔日の形を、完全に取り戻すよ、ファーリィ」
「分かっています。父上達が愛したマリーネ共和王国の本来の姿を、
 一日も早く取り戻しましょう、お兄様」
「うん」
「よし、気合を入れ直すぜ、ユニア!」
「分かってる。ここからは本格的に魔道部隊も動かしましょう」
それぞれに決意を秘め、アーバン一家は、勝利の余韻に浸るのであった。

グライア公国が撤退し、マリーネ共和王国軍がプライム・シティを
完全制圧している頃、カイゼル帝国には急報が届いていた。
「皇帝陛下! 急報ですぞ! マリーネ共和王国軍が、グライア公国軍を完全に退け、
 領土の三分の二を既に奪還したとの事です!」
偵察兵の持ってきた報告に、皇帝は驚いて立ち上がった。
「マリーネめ……いつの間にそのような実力を付けたのだ?
 つい十年前、我等の猛攻の前に成す術も無く崩壊していった
 あの国のどこに、そのような力が……?」
「マリーネ共和王国は、新君主を担ぎ上げたようです。士気が高いのもそのせいです!」
「新君主だと!」
カイゼル帝国皇帝、ガウディル=ノア=カイゼルT世はまたも驚愕した。
心当たりが一つあったからである。
「まさか、ウィーゼル王子が生きているのか?」
「そのようなはずはありませんな」
傍にいた、怪しげな赤い仮面で、顔を覆った男が口を挟んできた。
「レッドマスク、何を知っている?」
レッドマスクと呼ばれた男がガウディル皇帝を正面から見据えた。
この出自不明の怪しい男は、マリーネ共和王国崩壊の頃から
カイゼル帝国内に存在し、みるみる出世し、
今や皇帝の腹心とも呼ぶべき存在となっている強者である。
「私は見たのです、我が帝国軍に追われて逃走中、
 崖崩れに巻き込まれて落ちていく王子の姿を。
 あの状況で生きていられる人間など、まずおりますまい」
「お前がそう言うのなら間違いはないだろうが……だとすれば誰が!
 あの国にはもう他に、王子たる男子などいなかったはずぞ!」
「……恐らくは『王子』ではありますまい。
 彼の妹、すなわち『王女』です。確かは名は、ファーリッシュとかいいましたか」
「そうか! 言われてみて思い出した!
 ワシは確かに、マリーネ共和王国、ヨハン王の小倅、小娘を見た覚えがある!
 戦争前で、まだ二人して幼子であった故に、面影があるかどうかは分からんが、
 逃げたとあらば、その娘、ファーリッシュしかおるまい!
 うむ、確かに記憶の端にそんな名前を覚えておるぞ!」
ガウディル皇帝が一人でうんうん、と納得し始めた。
そこにまた別の幹部が出てきて、皇帝と正面から向き合う形になった。
「だったら、俺の出番じゃあないですかね?」
「ブラッドか……何故にお前の出番なのだ?」
ブラッド=ナイトストーカーは、下品で陰湿な笑みを浮かべた。
「そりゃあ、俺が唯一、そのファーリッシュ王女に肉薄し、
 今にも殺害成功しようかってとこまでいったからに決まってますぜ、皇帝陛下」
「……そう言えばそんな報告も昔聞いた覚えがあるな。しかし取り逃がしたのだろう?」
「あの時ゃ俺一人で追いかけてましたもんでね。
 ちゃんと手勢を率いて、それなりの戦術を駆使して臨めば、
 あんな小娘一人、今度こそ嬲り殺しにしてみせまさぁ」
「ふむ……確かに適任か。面倒だ、任せるぞ、ブラッド」
「へい。では適当に部隊を編成しますが、よろしいですかい?」
「好きにしろ。今日は驚き過ぎて疲れた。休む」
ガウディル皇帝は一方的に告げると、玉座から立ち去った。
「へへっ。戦争だ戦争。さーて、久しぶりに謹慎も解けたし、バリバリ殺すとすっか!」
「待たれよ、将軍」
浮かれたような顔で玉座の間を立ち去ろうとしたブラッドに、
レッドマスクが声をかけてきた。
「ンだよ、レッドマスクの坊や。若造は下がってろってんだ」
「貴方は無駄に人を殺しすぎる。捕虜を虐殺するのもいただけんな。
 貴方のその行いが、謹慎に繋がったのだと知らねばなりませぬぞ、ブラッド将軍。
 犠牲は最小限に、戦果は最大に。これが戦術の常道です」
「ご立派な屁理屈なんざ、どうでもいいね。
 俺は今度こそ、あの小娘をぶった斬るんだ。
 綺麗な娘に成長してるんなら、さぞかし気持ちのいい絶叫をあげて
 散っていくんだろうな。へへ……楽しみになってきたぞ」
「……甘く見ると痛い目に遭うかもしれませんぞ。
 あの若年にて、領土の三分の一を自らの指揮で奪還したのですからな。
 制圧した領土を見事に奪い返された、リグバルト公国の
 エルトリオン王子のような未熟者と一緒にするのは危険ではないでしょうか?」
「ま、確かにエルトの小僧は未熟で間抜けだがよ。
 一度屠りかけた相手をいちいち警戒してやらにゃならん理由は、
 この俺には無いわけよ。お分かりかい?」
「……お好きになさるが良かろう」
レッドマスクも玉座の間から退出していった。
「ちっ、せっかくの戦に水を差しやがる。無粋な奴め」
ブラッドは戦の準備に入るべく、まずは手近な兵を招集し始めた――


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