悲行少女


序章 戦いの狼煙

惑星ノアと呼ばれる星が宇宙にある。遥か遠く、地球と呼ばれた惑星より
移民した民が名付けた星。人類が住む、第二の地球側惑星である。

地球で、人は争いを繰り返し、西暦も4000年を過ぎた頃、
西暦最終戦争と呼ばれる世界大戦を繰り広げた。
科学が発達し、核兵器が未だに蔓延する世界、遂に世界は滅びの時を迎えたかと思われた。

しかし、災厄はまったく予期しないところから現れた。巨大隕石の到来である。
各国はこれを迎撃するために、戦争を中断し、一致団結して
対応せざるを得なくなり、西暦最終戦争はあっけなく幕を閉じる。
だが、危機に直面し、対応する時間もあったはずなのに、
人類の対応は遅すぎたのだった。有り余る核兵器を駆使し、隕石の破壊を試みたが、
隕石は寸断されたのみに留まり、大きな破片が地球へと落下。
凄まじい暴威が地球を覆い尽くし、あらゆる文明が滅びかかり、
地球人口は一割にまで減じた。その影響は尋常ではなく、文明や科学は元より、
宗教、政治、教育、司法などのあらゆる機関が麻痺し、数多の生物のみならず、
病原菌などまで多種類が絶滅するほどであった。
あまりの事態に、人が、神に祈るのをやめたほどである。

しかし、それでもしぶとく人間は生き延びた。
さらに時代は経過し、人類の統一は自然と生き残りによって成され、
国という概念が一時的に、宗教という概念が永久に滅びた。
その後、本格的な宇宙移民を成し遂げるべく『宇宙暦』と
年号が改められた事をきっかけに、復興が加速。
300年後にはスペースコロニーが建造されるまでになっていた。
火星改め、惑星マーズのテラ・フォーミング計画再提唱なども行われ、
宇宙開発はいよいよ本格的になってきたのである。

更に時代が経過すると、人は宇宙移民をさえ画策するようになり、
宇宙暦4300年、いよいよ宇宙移民船団が地球改め、惑星アースを旅立った。
名を『ノア船団』。船団長の姓と『ノアの箱舟』伝説にあやかったのである。
ノア船団は人類が居住可能な惑星を見つけるため、意気揚々と旅立った。
自らが二度と惑星アースに戻れない事は知っていながら。

その後、惑星アースは空前の発展を遂げる事になるが、
それはノア船団の知るところではなかった。
なぜなら、ノア船団が地球型惑星を見つけるまでに、幾度も世代を重ねていたのだから。
ノア船団はその後、宇宙暦4700年頃に一つの地球型惑星を到着。
全員揃って無事に、到着したのであった。
宇宙船に積み込んだ機材などを使って、その地球型惑星を開発。
その惑星は船団の名を取り『惑星ノア』と名付けられ、
同時に暦は『ノア暦』元年へと改名されたのである。
これが惑星ノア宇宙移民に関するあらましであった。

惑星ノアは不思議な星であった。怪しげな食物を口にし続け、
原生植物から抽出出来る薬を飲む事により、人類は魔力と呼ばれる力と、
魔術と呼ばれる技術を身に付けた。
その見返りというわけでもないのだろうが、危険な生物も多く、
まさに惑星アースでの神話やファンタジーのような世界が広がっていた。
それでもその後、人類は惑星アース同様に発展を遂げ、
六つの大きな国家が台頭する事になった。

独裁国家のカイゼル帝国、軍事国家のリグバルト王国、
産業国家のシレーネ共和国、工業国家のアムゼル民主国、
商業国家のグライア公国、平和主義のマリーネ共和王国の六つである。
特に際立って特徴的なのはマリーネ共和王国。
『共和王国』という概念は、表面上に王族が存在するものの、
実際の政治はまったく別の人間のみが行う傀儡政権である。
無論、こういった政治体制は古来に例を見るが、
こういう国の名を付けるのは例の無い事であった。

しかし人が集まり、発展すれば当然起きるのが戦争である。
発端はカイゼル帝国が惑星ノアの完全統一を掲げた事による。
マリーネ共和王国は真っ先に槍玉にあげられ、集中的に狙われた。
この時、マリーネ共和王国は崩壊し、カイゼル帝国マリーネ地方となった。
しかし、王族をすべて仕留めたと、いい気分で油断していたのが過ちであり、
この時点で、惑星ノア統一戦争に、全ての国が名乗りをあげてきていたのである。
また、幼き王女は辛くも逃れ、重傷を負うも重臣の手により保護され、育てられた。
マリーネ王国は更なる戦禍に巻き込まれたが、混乱に乗じた事により、
その領土の一部は、マリーネ共和王国として戻りつつあった。
しかし、決定打が足りていなかった。この状況を打破するために、
マリーネ共和王国重臣は、王女ファーリッシュをかつぎ上げ、
統一戦争に遅ればせながら名乗りをあげる計画を立てたのだった。

重火器や戦車、航空機の使用による無尽蔵な戦争の拡大を嫌った条約
『大南洋条約』により、冗長性の高い降着状態に陥っていた惑星ノア統一戦争は、
ノア暦280年、このマリーネ共和王国王女生存という事実と、
生身の人間が使う新兵器の登場により、新たなる局面を迎えようとしていたのである。


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