プロローグ


A・D……西暦と呼ばれし時代が三千年を過ぎ、四千年を過ぎてなお、
人類は戦いを、争いをやめなかった。いや、やめられなかった。
それぞれがそれぞれの正義を持っていたことは、疑いようのない事実である。
ただ、それがよい結果とならなかったのも疑うのが愚かしいくらいの事実だった。
……だが、何かを疑うことを悪となじるなら、
互いを信じきれなかった各国の人間に悪の名を付けてしまう事も、簡単ではある。
しかし、時代の流れは人類にそんな暇さえ与えてはくれなかった。
その時までの人類最大の汚点であった『第二次世界大戦』とは
比較にならないほどの全世界規模の戦乱『西暦最終戦争』の勃発。
その惨劇により、人類の大半近くが死亡。
生き残った者には、さらなる悪夢の追い打ちがかけられる事となった。
巨大隕石による恐怖である。
この事態を重く見た各国政府は、ただちに休戦協定を結び、団結した。
ところが、何が起こったのかは分からないが、隕石は地球に衝突する前に砕けた。
だからと言って、決して無傷ですんだわけではない。
無数の破片が降り注ぎ、人類の九割近くを死に至らしめる結果となった。
だが、無事な部分が皆無だったわけでもなかった。まるで最初から、
隕石がそういった場所を避けているのではないかと思えるほど、自然豊かな場所は無事だったのである。
この隕石の衝突により、まず国家機能全体が消滅した。
次は宗教の事実上の滅亡とそれによる一部慣習の廃絶である。そして大陸の大移動。
その大陸大移動は、長い間続き、結局は数千年にも及んだ。

――いつしか地球は『地球』とは呼ばれなくなっていた。
『惑星アース』と呼ばれるようになった。
太陽系各惑星も、太陽もそれぞれに呼び名が変わり、
太陽系は『恒星サンシャイン系』と呼ぶ事が決まった時、西暦は終わった。
A・J(アフター・ジャッジメント)暦である。
そして、世界は北極、南極と新たに出来上がった三つの大陸でようやく落ち着いた。
その三つの大陸は、そのまま三つの国家となった。
最初に出来たのは、共和国と王国の長所を最大限に引き出した、
共和王国という概念によって創られた『ザン共和王国』。続いて『ダイ民主主義国』『シテージ国』が建国された。
宇宙開発が進み、スペースコロニーも多数建設され、宇宙大移民が行われた。
人は、逆境に立たされることで強くなる。その証拠に、
宇宙大移民があらかた終わる頃には、人類はかつてない発展を見せた。
それと共に、どういうわけかは知らないが、いつしか人々に『魔力』が備わっていた。
西暦最終戦争以来、色々な空想上の生物と思われていたものが、
現実に姿を現し始めたことと関係があるのかどうかは分からなかったのだが。
そうしているうち、A・Jも三千年が過ぎた。
A・J3256、不穏な空気がアースに渦巻いていた。
『神』『魔』の存在が発覚し、話題を集めていた矢先、魔王と名乗るものが、
突然人類に宣戦布告をしてきた。これに慌てる各国首脳たちをよそに、ザン国王ラルフは、
ザインという、ある若者を呼び寄せることにした。
この『ザイン=ストレンジャー』という若者に、全世界の人間が
その命運を任せることになるとは、誰も予想していなかったことは、言うまでもない……


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