――約四十分後。
何の障害もなく、勇者軍はハッチ前に到着した。全員宇宙服を着込み、消耗して
気絶したままのザインにも、全員で宇宙服を着せた後、ハッチから外へ出て、必死にシャトルの方へ移動した。
「あっ!」
「な、何? ステルサーさん!」
ステルサーの驚きの声にびくっとするライナ。シャトルを見ろと言いたげなステルサーに従って、
シャトルを見てみると、なんと、シャトルが真っ二つに割れていた。
「やばい! よりによってシャトルがさっきのアルファの一撃でやられてるぞ!」
「ステルサー、このままでは私達すら無事では済まないぞ。どうする?」
「とにかく諦めるな、ラルフ王! とりあえず救難信号を!」
「分かった!」
パァァァァァッ!
救難信号代わりの閃光弾が虚空に輝く。
その光に反応してか、ザインがようやく目を覚ました。
「ううっ……ラ、ライナ……ここはどこだ? 一体どうなってる?」
「ギガメテオ自爆決定脱出後宇宙漂流中救難信号閃光弾打ち上げ完了以上!」
「分かるかっ!」
「分かってよっ!」
「待て、二人とも! 運が良かったようだ」
ステルサーが二人の口論を制止する。
早速、救難信号に反応してくれた移動物体が、こちらに向かってくれていたのだ。
「大丈夫か?」
宇宙服のヘルメットから、相手の声が無線通信で聞こえた。なので、セレナは同じ手段による返事をする。
「ええと、救助をお願いできますでしょうか? なにぶん、緊急事態なもので……」
「了解した。そのままでいてくれ。五分後には合流できる」
「分かりました。ありがとうございます」
ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……
そして、五分後、ザイン達の目の前に現れたのは、巨大な人型マシンだった。
「な……何だこりゃあ?」
それは、子供向け特撮ヒーロー番組に出てくるようなマシンだった。
「お……お前達は!」
「て、てめぇ!」
コクピットハッチから姿を見せた男を見て、ザインは驚愕した。
いや、それはパイロットも同じだった。
そう、お互いは顔見知りだった。相手側は、捕まったはずのクイニゲーダーだった。
「勇者軍じゃねぇか! こんな所で何してやがる!」
「うっせぇ! それはこっちのセリフだ! 脱獄してきやがったなてめぇらっ!」
「やかましい! ただ脱獄してきただけだと思うなッ!」
「ンだと? どういう事だ、ゲーダーレッド!」
「アースを救おうとしたのは、お前達だけじゃない! 我等クイニゲーダーも、
魔王提供の最強人型メカ、ゴッドゲーダーロボにて駆けつけたのだ! だが、どうやら決着はついていたらしいな……」
「そんな事を言ってる場合か! 早く俺達連れてこの空域から脱出だ! あの隕石が自爆するんだよっ!」
「……分かった。志は違えど、目的は同じ。目的を果たしてくれたカリは返す。
とりあえず脱出ポッド兼予備コクピットを開ける。狭いだろうが、そっちに乗れ」
「カリはこっちも一緒だ。今回は見逃してやる」
お互い、憎まれ口を叩き合うザインとゲーダ―レッド。
キシュゥゥン!
ハッチが開く。全員、速やかに中に入る。
「ブルー、エンジン調整を頼む、ピンクはコース修正だ。イエローはアースまでの最短コースの検索、
グリーンは亜空間ワープドライブスタンバイ。脱出開始!」
「了解!」
「任せなさいな!」
「おっしゃ!」
「ラジャー!」
四人は素早く脱出を開始する。
ザイン達とレッドは内部通信で会話する。
「しかし、何だってお前等、魔神王の計画を知ってたんだ?
って、お前も魔王から色々と聞かされたクチだろうけどな」
「そーゆーこった。だが、悔しい事に、魔神王は俺達には倒せん。
だから、せめて隕石破壊の手伝いをしてくれないかというのが、本当の依頼だ。
まあ、食い逃げ云々は、俺達の単なる趣味なんだが」
「まったく、迷惑な……」
「ちっ、言ってくれる。俺達にしてみりゃよ、てめーが一番めーわくだ」
「はは、違ぇねぇ」
「それにしても、よく生きてたもんだな。まぁ、てめーらに恨みはあっても、
決して死んで欲しかったわけじゃねぇからな」
「まあな。ところで質問だ」
「何だ?」
「亜空間ワープドライブって言ってたよな? 実験とかしたのか?」
「しとらん」
「しとらんって、オイ! それ系の技術はまだ国家監察軍特殊技術研でだって、
一度も成功した事がねぇんだぞ! それを実験なしでやろうとするか、普通!」
「じゃあ今実験する! 魔王軍技術陣を信じろ! 普段からポンポン空間渡って、
俺達の前に現れるような連中の作った代物だ、たぶん心配ない!」
「ちょっと待てつっとんじゃぁぁぁぁっ!」
しかし、レッドは抗議するザイン達を無視して別の相手と通信を始めた。
「ピンク、現在位置は?」
「惑星マーズと惑星アースのラグランジュ・ポイント付近です」
「よし、グリーン、頼む!」
「ラジャー! 亜空間ワープドライブ、実験開始!」
「するなぁぁぁぁぁぁぁ!」
キュォォォォォォォォォォ……
ォォォォォォォオオオオオ……
しばらくすると、既にそこは惑星アース大気圏内だった。空には爆発したギガメテオの
破片が見える。ワープドライブ中に自爆したのであろう。
「……何とか、無事なようだな」
感涙するゲーダ―レッド。
「アホかぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そして、抗議する勇者軍一同。
「よし」
ぱしゅ。
それを完璧に無視して、脱出ポッドを勝手に射出するゲーダーロボ。
「よしぢゃなぁぁぁぁぁい!」
「メチャすんなぁぁぁぁっ!」
「くおらぁぁぁぁっ! クイニゲーダァァァァァッ!」
「ひぃぃぃぃぃぃっ!」
「きゃああああああッ!」
「シャギャアァァァァァ!」
それぞれに狭いコクピットの中で悲鳴と抗議の声をあげつつ、ポッドごと勇者軍は地面に向かって落下していった。
シュウウウウウ……
もちろん、無事に着陸した。いくらなんでも、対ショック製にはなっている。
着陸の瞬間、わずかに浮上して、ショックを無くしたのだ。
「何てことするんだぁぁぁぁぁぁっ!」
「最後の見せ場くらいよこしぃやっ!」
ゲーダ―イエローがザインの抗議に対して、小馬鹿にしたような返事をする。
バシュウウウウ!
そして、ゲーダーロボは、大空に向かって飛行し始めた。
そう、その先に見える、やたら大きい隕石の破片に向かって。
「って、デカくねぇか? あれ」
ステルサーが冷静な指摘をする。
破片と呼ぶには、少々大きすぎる。
「げげっ! 魔神王のヤロウ、火薬設置のバランスをミスったなっ!」
ザインが一番早くその事に気付いた。
「くっ! どうする?」
ラルフ王がザインの指示を求める。
「とにかく、一番強力な火力を持ってるのは、あのゴッドゲーダーロボとかいう奴のはず。
俺達は消耗している。黙って見ているしかない!」
「粉々に砕けば、あとは大した被害も無いはずなのだが……」
「ラルフ王!」
そこまでラルフ王が言いかけた時、カイン、トーマスを筆頭とする、勇者軍サブメンバーが突然その場に現れた。
その中には、ミルフィーユもいたが。
「パパ、隕石は? 隕石はどうなったの?」
「ミルフィーユ! カイン達もか! 隕石は今、クイニゲーダーが止めようとしてくれている!
それで駄目なら勇者軍の力を結集して、何とかするしかない!」
「へ? 脱走中のクイニゲーダーが……? ま、まあそんな事どうでもいいわ。
了解!とにかく緊急事態に備えて、準備するわ!」
「頼む!」
その時、天空から大声が響き渡る。ゴッドゲーダーロボの外部スピーカーからだ。
「ひぃぃぃぃぃぃっさつっ! ファイナルゴッドゲーダースラァァァァァァッシュ!」
何かいかにもそれっぽい必殺剣をゴッドゲーダーロボが繰り出す。
ガチィィィィィン!
……もちろん、剣で石が斬れるとは限らない。というか、斬れないのが普通だった。
「……」
勇者軍の沈黙をよそに、ゲーダ―ロボは器用に隕石にへばりつきつつ、頭をポリポリ掻く。
というか、何故できるのかは謎である。そして、ブルーの一言。
「俺達の力はここまでのようだ! 後は任せたぞ、勇者軍の諸君!」
その一言を残し、あっさりと逃げ出すゲーダーロボ。
「なんだそれはぁぁぁぁぁぁぁっ!」
どきゅどどきゅどどがどがどきゅきゅっ!
勇者軍サブメンバーから、攻撃呪文の雨がゲーダーロボに飛ぶ。
「はっはっはっはっはっはっ……」
高笑いを残して、完全に姿が見えなくなった。
「うぬぅぅぅぅ……とにかく、どうする?」
「任せて、パパ!」
懊悩するラルフ王に対して、ミルフィーユが挙手する。
「ザイン、あたしを担いで空飛びなさい!」
「え? ああ……けど、それでどーにかなんのか?」
「なる!」
「よっしゃ……姫さんが何考えてんのかは知んねーけど、いっちょ付き合ったる!」
「そうこなくっちゃ! 行くわよ、ザイン!」
「おうさ! エアウィング!」
ヒュオオオン!
勢い良く空中に舞うザイン達。
「ザイン……あたしのカウント・ダウンに合わせて、あたしをあの隕石めがけて投げつけなさい。それが作戦内容よ」
「おう……って、え?」
ふと、疑問。
「三、ニ、一……ゼロ!」
「はぁぁぁぁぁぁっ! って、ハッ! 何してんだ俺!」
しかし、ザインはもうミルフィーユを完全に投げてしまった。
「あああああああっ! なんつー指示を出すんだあいつはぁぁぁぁぁぁっ!」
急いで追いかけるが、とても間に合わない!
「ミルフィィィィィィィィィィユ!」
ザインの叫びも虚しく――
「ミルフィーユ・パァァァァァァァンチ!」
ミルフィーユの気合の声が響いた。
「は?」
キィィィィィィィィ!
ミルフィーユの体が、黄金色に輝き、そして――
どがっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!
滅茶苦茶な轟音と共に、隕石が彼女に接触した途端、粉々に砕け散った。
「なぁぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃぃっ!」
続いて、その場にいた全員の叫びが辺りに響いた。
誰が……誰が予想したであろうか?
わずか十六歳のやや子供じみた一人の王女が、素手で隕石の大きい破片を砕くなどと。
予想できる方がよっぽど怖い。
だが、ミルフィーユは魔法を使えなかった。
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!」
なんと、ギガメテオを砕いた後、そのままミルフィーユは落下していった。
「まずい! ミルフィーユが!」
ザインは慌てて、自分の真横を通り過ぎて落ちていくミルフィーユをキャッチするべく、
急降下を始めた。
「ミルフィーユ!」
ラルフ王が前に出て受け止めようとする。
無論、無駄な行動どころか、逆効果なのだが。
「どけ、ラルフ王! 俺が何とかする!」
ザインが全速力で追うが、追いつかない。
「――こうなったら!」
ザインは、一旦術を解いて、自由落下を始め、それと同時に精神集中した。
そして、タイミングを計って、呪文を唱える。
「今だ! ウィンドキャノン!」
バシュウッ!
強力な風の砲弾が、ミルフィーユの落下する先の地面に向けて放たれる。
どがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
「おわぁぁぁぁっ!」
下からの悲鳴が聞こえる。
その着弾による炸裂の衝撃波で、ミルフィーユの体が一瞬宙を浮いた。
先程のシャトルの原理を応用したのである。
「あうっ!」
一瞬、苦痛の声をあげるミルフィーユ。その体を、ラルフ王、ステルサー、
サブメンバーのチャールズにマリアが何とか受け止めた。
そして、その体をそっと地面に降ろした。
「エアフロート!」
ザインが浮遊の術で、ゆっくりと降りてきた。
他のサブメンバーは、隕石のカケラの破壊に大忙しである。
まあ、当たってもあまり影響は無いほどに小さくなっていたが。
「ったくっ! 何て事すんだ、ミルフィーユ!」
「何言ってんの、結果オーライってもんよ」
「あのなあ……」
とにかく、終わった。
何が何だか良く分からないうちに、戦いは終わった。
「しっかし、大変だったわな……」
「これからの身の振り方を考えねーとな」
メインメンバーにしてみれば、目的は達成されたわけである。
従って、ラルフ王とミルフィーユ以外のメインメンバーは、当分何もやる事はない。
ステルサーのセリフも、当然の事なのだ。
「そうですねぇ……あのー、ステルサーさん?」
「ん?」
「一緒に、レストランでも開きません? 楽しいと思いますけど……」
「……ヴァジェスも一緒にか? メシ屋に動物は厳禁だぜ?」
「大丈夫ですよ。この子は賢い子ですから」
「ま、ワイバーンだしな。マスコット・キャラにでもなってもらうとすっかな。よっしゃ、その話、乗った!」
もちろん、ステルサーとて、大人気なくヴァジェスにやきもちを妬いているわけではないのだが、
ただ、言ってみたかっただけである。
「アーギャ!」
それをしっかり分かっているのか、ヴァジェスはステルサーにもしがみつく。
「私は、勇者軍結成前と何一つ変わらんさ。まあ、事後処理にしばらく追われるとは思うがな、どうせ」
ラルフ王は味気ない事を言うが、今はそれすらも微笑ましい。
「そうそ、ほっぽり出した分の仕事、きちんとパパの分、残しといてあげたわよ〜♪」
それとは対称的に、面白そうに笑いまくるミルフィーユ。
「ま、私達もそうなんだがな」
サブメンバーの面々も、言いたい事を言う。
考えてみれば、全員の名前すら把握してなかったりする。
長い付き合いになるはずなので、しっかりと覚える必要がありそうだ。
「で? ザインとライナはどうすんだ?」
「ん? 俺等か……そうだな、俺もライナもまだまだ一つの場所に落ち着くような心境じゃないんだな、
これが。ま、好き放題にやっていって、それに飽きたら、大人しくしとこうかと思う。ライナ、それでいいか?」
「問題ないわ。あたしはどこまでもあなたと一緒だもの」
「ま、未来の事はどうあれ、とにかく今日は休もうぜ、ラルフ王。疲れた〜……」
「……ザインの言う通りだ。確かに、後ろ向きばかりでは良くないが、未来だけ見つめるのも疲れるものだ。
目先の事を考える時間があってもいい」
「堅苦しい理屈は言いっこなしだ。アーム城へ行こうぜ……俺、もう限界……」
「ああ。そうだな……」
「で? 皆はいつ結婚すんの?」
ミルフィーユのあっけらかんとした話題に、一同言葉を無くす。
もちろん、ミルフィーユが言う『皆』とは、ザインとライナ、ステルサーとセレナの事である。
「……アーム城で式、挙げさせてくれる?」
ライナがミルフィーユにおそるおそる相談する。
「いーわよ、いっそ、ステルサーもセレナもそうしたらいいじゃない、パーッと合同結婚式しちゃいましょ!
めでたい事は一気にね! あーめでたいわっ!」
「……お気楽王女……」
ボソリとザインがつぶやいたが、もちろん聞いてはいない。
「え? ええっ? わ、私、そ、そんな……」
もちろんセレナは慌てる。
「あのなあ……義姉さん……あんたらはもう何年も前にその意思があったんだろ? 今更心の準備もクソもねーだろが」
「そうそ。あなた、ステルサーを好きなあまり、ウチの城を崩壊までさせたじゃない」
ザインに代わって、ミルフィーユがフォローをするが、何故か不穏当な単語が出てくる。
「城を崩壊って……なんで?」
無論、問わずにはいられない。
「そこはそれ、乙女のひみつ♪」
「あのなあ……まあいいや、とにかく、帰ろうぜ!」
「撤収しましょーっ!」
遠くからあのアリシエルの声が聞こえてくる。呼んでいるようだ。
「おーう!」
全員の景気のいい声があがる。そして、勇者軍は、城へと戻った。
それからの暮らしは、ほぼ本人達が述べた通りのものだった。
ザインとライナは、旅に出て、ラルフ王とミルフィーユ王女は事後処理に追われ、
ステルサーとセレナはザン共和王国の国内で、ヴァジェスをマスコットにして、レストランを開いている。
トーマス、マリア、カインに関しては、国を治めるのに忙しいといったところで、
リースティーンはまあ、穏やかに隊内での地位を築いている。
その他の連中も、おおむね平和に暮らしている。
こうして、彼等はようやく平穏を掴み取ったのだった――