第四章 ストレンジャーの血


「封神封魔流、攻の秘剣――」
「やめてッ、ザイン! お願いよ! 嘘だって言ってちょうだい!」
ライナの悲痛な叫びが辺りに響いた。
すると、ザインはにっこりと笑って、くるりと魔神王の方へ素早く体を向けた。
「うん嘘」
「へ?」
ザインの言葉の意味が、ライナはしばらく分からなかった。が、そんなライナを放って、ザインはとりあえず技を放つ。
「惑星両断剣!」
バシュウウウウウウウウウッ!
あまりに強烈なエネルギーが、魔神王の体を斬り裂こうとする。ザインが使う技としては、
最高の自信が持てる技だった。ザインは、それを至近距離から魔神王に向けて、騙し撃ちをしたのである。
「くっ!」
魔神王は痛がっていたが、ザインの技をあっさりとかき消した。
「ふむ……人間に例えるなら、蜂に刺された程度には痛かったな」
余裕を見せる魔神王。
「な、何だとッ!」
ザインは、驚きの表情を隠しきれなかった。
ガッ!
そして、ザインはそのままの表情で、ライナとラルフ王のダブル・キックによって、三メートルほど宙を舞った。
「こンの、卑怯者ぉぉぉッ!」
「驚かすな馬鹿者ぉぉぉッ!」
「な、何だよ、二人とも。そんなに怒る事ねーだろが」
「あたしの前では、ウソはなしって、あれほど言ったじゃないのお、ザイン!」
「心臓に悪いではないか! 仮にも勇者と名の付く者が、汚い手を使うんじゃない!」
ライナとラルフ王に怒鳴られ、ザインは思いっきりスネていた。
「だーってさー、正攻法じゃ大したダメージ与えられそーにねーから、味方欺いてまで直撃させたのにさー、
ライナもラルフ王も怒るんだもんなー……うううう……」
ザインが泣こうとした瞬間、先に別の泣き声が聞こえてきた。
「うえっ……うええぇ……ぐずっ……」
言うまでもなくセレナである。
(げ)
ザインは嫌な予感がした。
「ぐずっ……心配……しちゃったじゃないですかぁ……うえっ、次からは……ううっ、断りもなしに……
ぐす……ああいう事……しちゃダメですぅぅぅぅぅっ!」
シュバッ! ヒュンヒュヒュンヒュン!
サイキックピザカッターが、分離して、ザインを集中攻撃する。
「あああああああっ! やっぱ義姉さん、怒ってるぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!」
ザインは逃げつつ、よけるしかない。
「義兄さんッ! 義姉さんを止めてくれ!」
ステルサーに向かって、ザインが助けを求める。するとステルサーは、
悪魔の笑みと共に親指を立てた後、それを下に向ける。
「死」
「死って、アンタ!」
「セレナさん泣かしたから、死」
「たぁぁぁぁすけてくれぇぇぇぇぇッ!」
ザインは、ある意味で本当に勇者軍全員を敵に回したかもしれなかった。
「静かにしろぉぉぉぉッ!」
ゴゥッ!
無視されたに等しい上に、目の前で騒がれ、魔神王は怒りに任せて辺りに衝撃波を撒き散らした。
それで騒ぎは止められた。
「うぐっ!」
「どわぁっ!」
「あうっ!」
「きゃああっ!」
「ちッ!」
魔神王に近い順――ラルフ王、ステルサー、セレナ、ライナ、ザインの順に吹き飛んだ。
「まったく……実質最後の敵を目の前にして大騒ぎをするとは……一体どういう神経をしているのだ、
お前達は……まあいい、とにかく話を戻すぞ。ザインよ、やはり薄くなったストレンジャーの血の力など、
そんなものだろう? 諦めてはどうだ?」
「冗談ぬかせ!」
「そもそも、私が人間を滅ぼそうとしている理由が、きちんと分かっているのか?」
「全てを魔王から聞いたわけじゃない」
「ならば、話しておかねばならぬな。どの辺まで聞いたのだ?」
「環境破壊がヒドいから旧時代に隕石落とそうとしたってのと、やられ際に他種族を創造したってのは聞いた」
「細かい部分は聞いていないわけだな?」
「まあ、そういうことになるな」
「大体、環境破壊環境破壊と言っているが、それがどういった規模にまで発展していたか、
当時の状況を知っている者はお前等の中にいるのか?」
「地球と呼ばれていた頃のアースの森林が九割以上なくなっていると聞くが?」
「当時の国家の発表では、そうなっている。だが、実は人間の科学力は、
アースのコアにまで影響を与えかねない程だったのだ」
「何だと!」
「事実だ。科学兵器、核兵器、反応弾その他様々な力はアースそのものを破壊しかねなかった。
そうでなければ、いくら私とて、人間をわざわざ滅ぼそうなどと思うものか。
我が愛するアースを壊される事だけは、我慢ならん」
「だけど、アルファが止めた」
「そうだ。だが、奴は当時の一般の人間のような、心無き者とは違った。
だから私も、奴をライバルと認めた。尊敬すらしている」
「それほどまでの……」
「そう、そして私は負けた。そしてお前がさっき放った技で、隕石を斬り裂き、自分も果てた。
恐ろしい技だな、あれは。奴がフルパワーであの技を放てば、本気で惑星一つくらいは両断できるな。
『惑星両断剣』の名にふさわしい。何故、奴にあれだけの才能があったのかは分からん。
いくら何でも、ちょっと特殊なだけの人間が、どうしたらああも強くなれるものか、まったく見当がつかん」
「あんたは、全知全能じゃないのか?」
「そんな者は、どこを探してもいない。大体全知全能なら、アルファに負けたりはせん」
「魔王が言ってたんだが、アルファは、先代魔王と先代神王の遺伝子を意図的に取り込んだと言っていた。
それだけでは、あんたにゃ勝てねぇつーのか?」
「馬鹿を言うな。普通はそんな生易しい事で私に勝つなど、出来はしないものだ」
「……」
「私が神と魔の融合体であるというのに、神王と魔王の力を取り込んだだけの人間では、
普通は到底勝てないというのが、引っかかるのだな、ザインよ」
「まあ、そうだ」
「私は、神王を超える神と、魔王を超える魔の試作品として、創造された物の融合体なのだよ。
だから、神王と魔王の力を一つにまとめても、普通は勝てるわけがない」
「そんなにも強大なもんだったんか……」
ステルサーは、それしか言えなかった。
格の違いを知ったからである。
「力の差って……重要なんですか?」
セレナが、場の雰囲気をぶち壊すような気の抜けた声で質問する。
と言うより、この期に及んでの、その質問そのものが、充分にこの場の雰囲気をぶち壊していたりするのだが。
「……まあ、具体的に知っておいてもよかろう。たとえば、ごく普通に生活する一般の人間の力量の値を、
五十とする。すると、お前等は一万前後、本来の力を使える場合の魔王や神王は、百万前後。
で、私やアルファは……大雑把に一億くらいかな? だからと言って、お前等みたいなのが一万人揃ったからって、
勝てるわけでもない。あまりに力量が違えば、数など一切問題にならないのだよ」
「さあ、重要性が分かったんだから、もういいでしょ? 引っ込んでてね、セレナさん」
ライナがセレナを引っ込める。
「言いたい事がある」
ザインが、一歩前へ出る。
「何だ?」
「人類を正しい道へ導くという選択肢は、無かったのかよ、魔神王?」
「……何を今更……?」
「あのなァ……環境を守るのは非常に結構だ。だがな! 環境の中には『人的環境』ってのが、
しっかりと含まれてんだ、覚えとけってんだ!」
ザインの言葉に、目をパチクリさせる一同。
「……ふっ……」
突然、魔神王が笑い出した。
「ふふふふふ……はっはっはっ……! いや、これは愉快だ! まさか、言う事まで
――屁理屈まで、アルファと一緒だとは思わなかった。やはり、良くも悪くも、
お前はストレンジャーの直系の血を継いだ者なのだ! ……嬉しく思うぞ、ザイン=ストレンジャー。
再び、そのセリフが聞けるとは思わなかった。分かった。約束しよう。人間の間違いを正すとな。
そのためにも、今、お前達には、私を倒してもらわなくてはな!」
「何故だ魔神王!」
「私の心は、もう人間を憎む気持ちしかないのだ。今の私には、人間を許す事が出来ない。
だが、一度やられて、再生すれば、私の心はリセットされ、邪念も好意も抱かないものとなる。
だが、再生の時、記憶しておいた、お前達との会話の記録を引き出せば、次こそは大丈夫だ。人間を憎まずに済む」
「魔神王……」
「気にするな。私が『死ぬ』という事は、まず無い。『やられる』とは違うのだ。
後者なら、私は、心をリセットされ、いくらでも再生する。時間はかかるが、心を痛める必要は無い。
そういう意味では、私の命が、この世界で一番安っぽいものかもしれぬな……」
「命に値段は付けられないわよ?」
「……そこの娘よ……今の世に、そんな言葉が出る者がいるとは思わなかった。
その一言、ありがたく心に留めておく!」
ライナに向かって、軽く会釈をする魔神王。
そして――
「それぞれの名を改めて聞こう。そして、その名、必ず覚えておくぞ」
「ザイン=ストレンジャーだ。改めて言ってやったんだ、しっかり覚えとけ!」
「ラルフ=ギル=ザン=アームT世だ」
「ステルサー=ジーニアスだ。絶対ぇ忘れんじゃねぇぞ!」
「ライナ=ルストよ!」
「セレナ=カレンと申しますわ。あ、あとそっちのワイバーンがヴァジェスさん」
「心に刻んだぞ。来い、勇敢な者達……勇者軍よ! 私を憎しみから解放してみろ!」
「……俺の最後の奥の手だ!これで長かった戦いに、決着つけてやらぁな!」
ザインは、アブソリュートセイバーを、地面に突き立て、印を組んだ。意識を集中し、技を発動させる。
「封神封魔流・禁術! 開祖召喚ッ!」
すると、その場に、アルファらしき人物の霊が、宙に姿を現した、その霊は、するりとザインの体に入っていった。
「うっぐッ!」
「ザイン!」
ライナが悲鳴じみた声をあげる。
ザインの体から、煙のような物が出ている。
「大丈夫? ザイン! ザインってば!」
「ガタガタ騒ぐんじゃねぇよ小娘がっ!」
「な、何ですってぇ!」
ザインがライナに怒声をあげたのに対し、ライナも怒声で答えた。
「ザインの体は、この俺、アルファ=ストレンジャーが借りてんだよ、
こいつが俺を呼んだんだからな!きっちし返すから静かにしやがれっつってんだ!」
ザイン――もといアルファは、何千年ぶりかに現世に現れて早々のライナの大声に、
少々げんなりしていた。が、もちろんそれはライナの知った事ではない。
「……さて、と」
キーキー喚くライナを放って、アルファはラルフ王に話しかける。
「あんた、悪いがガキ共に、引っ込んでるように、言ってくれないか?
言っちゃ悪いが、あんた等じゃ、魔神王には勝てねーよ。余計な犠牲を出したくねーなら、退きな」
「……分かった。私達はあなたほど魔神王に因縁が深いわけでもない。ここは譲ろう」
「ようし、物分りが良くて助かる。安心して任しとけよ。絶対ぇ負けやしねぇからよ」
そう言い放ち、アルファはついに魔神王と正面から向き合う。
「久しぶりじゃねぇか、魔神王」
「大体、三千年ぶりといったところか」
「まーな。俺達先人の不始末、もっかい先人の俺がきっちしケリつけてやる」
「結局……結局この時代でも、私を倒すのはお前の役目だという事なのか!」
「不服か?」
「まさか」
「悪いが、術者達は急いでるみてーだからな。一瞬でキメちまうぞ」
「構わんさ」
「なら……いくぞッ!」
そう言って、アルファは全力でパワーを溜め始めた。そして、魔神王も。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
ザインのパワーなど、ミジンコ程にしか感じられないくらいのパワーが、アルファと魔神王に向かって集束される。
「手を出すなよ、ライナ、セレナ、ステルサー!」
ラルフ王が何とか指示を出す。
「って言うより!」
「て、手出しなんかできませぇん!」
「迂闊に手ぇ出したら死んじまうって!」
ラルフ王が言うまでもなく、三人とも、手出しなどできるわけがなかったのだが。
しばらくすると、二人同時に技を発動させる。
「封神封魔流・攻の秘剣、惑星両断剣ッ!」
「うおおおおおおおおおっ!」
秘剣のエネルギー波と、魔神王のエネルギー弾が接触し、そして――
パァァァァァン!
秘剣のエネルギー波が、魔神王のエネルギー弾をかき消した。
ビシュッ!
そのままの勢いで、秘剣のエネルギーが、魔神王を直撃・貫通し、更に――
ザンッ!
ギガメテオの壁の全てを切り裂き、宇宙空間に、飛び出た挙句、宇宙の彼方へ消えていった。その一撃で決着がついていた。
しかし、技によってできた隙間を塞ぐために、魔神王は力を振りしぼって起き上がり、呪文を唱えた。
「リ……リペア」
一瞬にして、ギガメテオの外壁の隙間が塞がった。
思わずホッとするラルフ王達。人間が宇宙で呼吸できるわけもないからだ。
魔神王は、倒れて、あおむけになって、話をする。
「アルファ……お前は一体何だったのだ? 人間ではないのか?」
「安っぽいSF映画みてーだが、異星人と言ったら納得がいくか……?」
「やはり、な……その強さ……人類には、本来ありえん強さだ。ザインにしても、
お前の血を引いているからこそ、という事なのだろう?」
「安っぽいよな」
「うん、安っぽい」
「七点」
アルファと魔神王の話はきちんと聞きつつも、すみっこで好き放題言いまくるステルサー、ライナ、ラルフ王の三人。
「やっかましいわっ! 悪かったな、安っぽくてよッ!」
「どうどう」
「そんな使い古されたボケはもうええわ!」
セレナがなだめるも、あまり意味が無かったようだ。というか逆効果だ。
「セレナさん、火に油って言葉、知ってる?」
「燃えるんですよね?」
「……ごめん、俺が悪かった」
ステルサーは一旦ツッコミを入れようとしたが、すぐ無かった事にしようと決めた。
ちなみにこの時点で、アルファは既にラルフ王達を相手にするのをとっくにやめていた。
「まあ、そういう事だ、魔神王。どっかで俺の血を継いでいなければ、封神封魔流の技は使えない。だから、
ザインにしてもそこのステルサーとかってのにしても、この流派の技が使えるんだ。この説明で、十分だったか?」
「ああ、十分だ……そろそろ肉体の限界だ。お前もそろそろ冥界へ帰ったらどうだ?」
「そうだな。隕石の処置くらい、あいつらが何とかすらぁ」
「そのための布石も打っておいた……」
「そうか……」
そう魔神王に返事をすると、アルファはライナの方へくるりと振り向き、こう言った。
「嬢ちゃん、ザインを返すぜ。そいつをよろしく頼まぁ」
「あ、はぁ……」
ライナの返事もロクに聞かず、アルファはザインの体から抜け出していった。
アルファが抜けて、ザインの体はその場に倒れようとしたが、ライナがそれを支えた。
それと同時に、魔神王の肉体も滅んだ。
ビーッ! ビーッ!
その直後、いきなり警報が鳴り出す。
『魔神王だ……』
肉体を破壊されたはずの魔神王の声がどこからともなく聞こえる。
『諸君らがこれを聞いているという事は、私が負けたという事だ。ただ、私を上回る者がいたなら、
そいつにアースを託してもよいとも思う。よって、私にアースを傷付ける資格はなくなる。
だから、私の肉体消滅をスイッチに発動する時限自爆装置をセットしておいた。
これより一時間後に、ギガメテオは爆発する。速やかに脱出せよ』
どうやら、スピーカーからの声のようだった。
「ちっ! 急いでシャトルに戻るぞ!」
「一時間もあれば、間に合いますわ」
「アギャー!」
魔神王の結界から解放されたヴァジェスも、セレナに乗っかり、勇者軍の脱出に同行する。
と、いきなりライナがザインを抱えて――
「ステルサーさん、パス!」
と叫び、ステルサーの方にザインを投げる。
「よっ……と!」
がしっ!
ステルサーもしっかりキャッチする。彼がパワー、スピード共に勇者軍一だから、
ライナも安心して、ザインを任せられるのだ。
「よっしゃ、走るぞ!」
ステルサーの号令で、全員、入り口に向かって走り出す。

――約四十分後。
何の障害もなく、勇者軍はハッチ前に到着した。全員宇宙服を着込み、消耗して
気絶したままのザインにも、全員で宇宙服を着せた後、ハッチから外へ出て、必死にシャトルの方へ移動した。
「あっ!」
「な、何? ステルサーさん!」
ステルサーの驚きの声にびくっとするライナ。シャトルを見ろと言いたげなステルサーに従って、
シャトルを見てみると、なんと、シャトルが真っ二つに割れていた。
「やばい! よりによってシャトルがさっきのアルファの一撃でやられてるぞ!」
「ステルサー、このままでは私達すら無事では済まないぞ。どうする?」
「とにかく諦めるな、ラルフ王! とりあえず救難信号を!」
「分かった!」
パァァァァァッ!
救難信号代わりの閃光弾が虚空に輝く。
その光に反応してか、ザインがようやく目を覚ました。
「ううっ……ラ、ライナ……ここはどこだ? 一体どうなってる?」
「ギガメテオ自爆決定脱出後宇宙漂流中救難信号閃光弾打ち上げ完了以上!」
「分かるかっ!」
「分かってよっ!」
「待て、二人とも! 運が良かったようだ」
ステルサーが二人の口論を制止する。
早速、救難信号に反応してくれた移動物体が、こちらに向かってくれていたのだ。
「大丈夫か?」
宇宙服のヘルメットから、相手の声が無線通信で聞こえた。なので、セレナは同じ手段による返事をする。
「ええと、救助をお願いできますでしょうか? なにぶん、緊急事態なもので……」
「了解した。そのままでいてくれ。五分後には合流できる」
「分かりました。ありがとうございます」
ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……
そして、五分後、ザイン達の目の前に現れたのは、巨大な人型マシンだった。
「な……何だこりゃあ?」
それは、子供向け特撮ヒーロー番組に出てくるようなマシンだった。
「お……お前達は!」
「て、てめぇ!」
コクピットハッチから姿を見せた男を見て、ザインは驚愕した。
いや、それはパイロットも同じだった。
そう、お互いは顔見知りだった。相手側は、捕まったはずのクイニゲーダーだった。
「勇者軍じゃねぇか! こんな所で何してやがる!」
「うっせぇ! それはこっちのセリフだ! 脱獄してきやがったなてめぇらっ!」
「やかましい! ただ脱獄してきただけだと思うなッ!」
「ンだと? どういう事だ、ゲーダーレッド!」
「アースを救おうとしたのは、お前達だけじゃない! 我等クイニゲーダーも、
魔王提供の最強人型メカ、ゴッドゲーダーロボにて駆けつけたのだ! だが、どうやら決着はついていたらしいな……」
「そんな事を言ってる場合か! 早く俺達連れてこの空域から脱出だ! あの隕石が自爆するんだよっ!」
「……分かった。志は違えど、目的は同じ。目的を果たしてくれたカリは返す。
とりあえず脱出ポッド兼予備コクピットを開ける。狭いだろうが、そっちに乗れ」
「カリはこっちも一緒だ。今回は見逃してやる」
お互い、憎まれ口を叩き合うザインとゲーダ―レッド。
キシュゥゥン!
ハッチが開く。全員、速やかに中に入る。
「ブルー、エンジン調整を頼む、ピンクはコース修正だ。イエローはアースまでの最短コースの検索、
グリーンは亜空間ワープドライブスタンバイ。脱出開始!」
「了解!」
「任せなさいな!」
「おっしゃ!」
「ラジャー!」
四人は素早く脱出を開始する。
ザイン達とレッドは内部通信で会話する。
「しかし、何だってお前等、魔神王の計画を知ってたんだ?
って、お前も魔王から色々と聞かされたクチだろうけどな」
「そーゆーこった。だが、悔しい事に、魔神王は俺達には倒せん。
だから、せめて隕石破壊の手伝いをしてくれないかというのが、本当の依頼だ。
まあ、食い逃げ云々は、俺達の単なる趣味なんだが」
「まったく、迷惑な……」
「ちっ、言ってくれる。俺達にしてみりゃよ、てめーが一番めーわくだ」
「はは、違ぇねぇ」
「それにしても、よく生きてたもんだな。まぁ、てめーらに恨みはあっても、
決して死んで欲しかったわけじゃねぇからな」
「まあな。ところで質問だ」
「何だ?」
「亜空間ワープドライブって言ってたよな? 実験とかしたのか?」
「しとらん」
「しとらんって、オイ! それ系の技術はまだ国家監察軍特殊技術研でだって、
一度も成功した事がねぇんだぞ! それを実験なしでやろうとするか、普通!」
「じゃあ今実験する! 魔王軍技術陣を信じろ! 普段からポンポン空間渡って、
俺達の前に現れるような連中の作った代物だ、たぶん心配ない!」
「ちょっと待てつっとんじゃぁぁぁぁっ!」
しかし、レッドは抗議するザイン達を無視して別の相手と通信を始めた。
「ピンク、現在位置は?」
「惑星マーズと惑星アースのラグランジュ・ポイント付近です」
「よし、グリーン、頼む!」
「ラジャー! 亜空間ワープドライブ、実験開始!」
「するなぁぁぁぁぁぁぁ!」
キュォォォォォォォォォォ……

ォォォォォォォオオオオオ……
しばらくすると、既にそこは惑星アース大気圏内だった。空には爆発したギガメテオの
破片が見える。ワープドライブ中に自爆したのであろう。
「……何とか、無事なようだな」
感涙するゲーダ―レッド。
「アホかぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そして、抗議する勇者軍一同。
「よし」
ぱしゅ。
それを完璧に無視して、脱出ポッドを勝手に射出するゲーダーロボ。
「よしぢゃなぁぁぁぁぁい!」
「メチャすんなぁぁぁぁっ!」
「くおらぁぁぁぁっ! クイニゲーダァァァァァッ!」
「ひぃぃぃぃぃぃっ!」
「きゃああああああッ!」
「シャギャアァァァァァ!」
それぞれに狭いコクピットの中で悲鳴と抗議の声をあげつつ、ポッドごと勇者軍は地面に向かって落下していった。
シュウウウウウ……
もちろん、無事に着陸した。いくらなんでも、対ショック製にはなっている。
着陸の瞬間、わずかに浮上して、ショックを無くしたのだ。
「何てことするんだぁぁぁぁぁぁっ!」
「最後の見せ場くらいよこしぃやっ!」
ゲーダ―イエローがザインの抗議に対して、小馬鹿にしたような返事をする。
バシュウウウウ!
そして、ゲーダーロボは、大空に向かって飛行し始めた。
そう、その先に見える、やたら大きい隕石の破片に向かって。
「って、デカくねぇか? あれ」
ステルサーが冷静な指摘をする。
破片と呼ぶには、少々大きすぎる。
「げげっ! 魔神王のヤロウ、火薬設置のバランスをミスったなっ!」
ザインが一番早くその事に気付いた。
「くっ! どうする?」
ラルフ王がザインの指示を求める。
「とにかく、一番強力な火力を持ってるのは、あのゴッドゲーダーロボとかいう奴のはず。
俺達は消耗している。黙って見ているしかない!」
「粉々に砕けば、あとは大した被害も無いはずなのだが……」
「ラルフ王!」
そこまでラルフ王が言いかけた時、カイン、トーマスを筆頭とする、勇者軍サブメンバーが突然その場に現れた。
その中には、ミルフィーユもいたが。
「パパ、隕石は? 隕石はどうなったの?」
「ミルフィーユ! カイン達もか! 隕石は今、クイニゲーダーが止めようとしてくれている!
それで駄目なら勇者軍の力を結集して、何とかするしかない!」
「へ? 脱走中のクイニゲーダーが……? ま、まあそんな事どうでもいいわ。
了解!とにかく緊急事態に備えて、準備するわ!」
「頼む!」
その時、天空から大声が響き渡る。ゴッドゲーダーロボの外部スピーカーからだ。
「ひぃぃぃぃぃぃっさつっ! ファイナルゴッドゲーダースラァァァァァァッシュ!」
何かいかにもそれっぽい必殺剣をゴッドゲーダーロボが繰り出す。
ガチィィィィィン!
……もちろん、剣で石が斬れるとは限らない。というか、斬れないのが普通だった。
「……」
勇者軍の沈黙をよそに、ゲーダ―ロボは器用に隕石にへばりつきつつ、頭をポリポリ掻く。
というか、何故できるのかは謎である。そして、ブルーの一言。
「俺達の力はここまでのようだ! 後は任せたぞ、勇者軍の諸君!」
その一言を残し、あっさりと逃げ出すゲーダーロボ。
「なんだそれはぁぁぁぁぁぁぁっ!」
どきゅどどきゅどどがどがどきゅきゅっ!
勇者軍サブメンバーから、攻撃呪文の雨がゲーダーロボに飛ぶ。
「はっはっはっはっはっはっ……」
高笑いを残して、完全に姿が見えなくなった。
「うぬぅぅぅぅ……とにかく、どうする?」
「任せて、パパ!」
懊悩するラルフ王に対して、ミルフィーユが挙手する。
「ザイン、あたしを担いで空飛びなさい!」
「え? ああ……けど、それでどーにかなんのか?」
「なる!」
「よっしゃ……姫さんが何考えてんのかは知んねーけど、いっちょ付き合ったる!」
「そうこなくっちゃ! 行くわよ、ザイン!」
「おうさ! エアウィング!」
ヒュオオオン!
勢い良く空中に舞うザイン達。
「ザイン……あたしのカウント・ダウンに合わせて、あたしをあの隕石めがけて投げつけなさい。それが作戦内容よ」
「おう……って、え?」
ふと、疑問。
「三、ニ、一……ゼロ!」
「はぁぁぁぁぁぁっ! って、ハッ! 何してんだ俺!」
しかし、ザインはもうミルフィーユを完全に投げてしまった。
「あああああああっ! なんつー指示を出すんだあいつはぁぁぁぁぁぁっ!」
急いで追いかけるが、とても間に合わない!
「ミルフィィィィィィィィィィユ!」
ザインの叫びも虚しく――
「ミルフィーユ・パァァァァァァァンチ!」
ミルフィーユの気合の声が響いた。
「は?」
キィィィィィィィィ!
ミルフィーユの体が、黄金色に輝き、そして――
どがっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!
滅茶苦茶な轟音と共に、隕石が彼女に接触した途端、粉々に砕け散った。
「なぁぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃぃっ!」
続いて、その場にいた全員の叫びが辺りに響いた。
誰が……誰が予想したであろうか?
わずか十六歳のやや子供じみた一人の王女が、素手で隕石の大きい破片を砕くなどと。
予想できる方がよっぽど怖い。
だが、ミルフィーユは魔法を使えなかった。
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!」
なんと、ギガメテオを砕いた後、そのままミルフィーユは落下していった。
「まずい! ミルフィーユが!」
ザインは慌てて、自分の真横を通り過ぎて落ちていくミルフィーユをキャッチするべく、
急降下を始めた。
「ミルフィーユ!」
ラルフ王が前に出て受け止めようとする。
無論、無駄な行動どころか、逆効果なのだが。
「どけ、ラルフ王! 俺が何とかする!」
ザインが全速力で追うが、追いつかない。
「――こうなったら!」
ザインは、一旦術を解いて、自由落下を始め、それと同時に精神集中した。
そして、タイミングを計って、呪文を唱える。
「今だ! ウィンドキャノン!」
バシュウッ!
強力な風の砲弾が、ミルフィーユの落下する先の地面に向けて放たれる。
どがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
「おわぁぁぁぁっ!」
下からの悲鳴が聞こえる。
その着弾による炸裂の衝撃波で、ミルフィーユの体が一瞬宙を浮いた。
先程のシャトルの原理を応用したのである。
「あうっ!」
一瞬、苦痛の声をあげるミルフィーユ。その体を、ラルフ王、ステルサー、
サブメンバーのチャールズにマリアが何とか受け止めた。
そして、その体をそっと地面に降ろした。
「エアフロート!」
ザインが浮遊の術で、ゆっくりと降りてきた。
他のサブメンバーは、隕石のカケラの破壊に大忙しである。
まあ、当たってもあまり影響は無いほどに小さくなっていたが。
「ったくっ! 何て事すんだ、ミルフィーユ!」
「何言ってんの、結果オーライってもんよ」
「あのなあ……」

とにかく、終わった。
何が何だか良く分からないうちに、戦いは終わった。
「しっかし、大変だったわな……」
「これからの身の振り方を考えねーとな」
メインメンバーにしてみれば、目的は達成されたわけである。
従って、ラルフ王とミルフィーユ以外のメインメンバーは、当分何もやる事はない。
ステルサーのセリフも、当然の事なのだ。
「そうですねぇ……あのー、ステルサーさん?」
「ん?」
「一緒に、レストランでも開きません? 楽しいと思いますけど……」
「……ヴァジェスも一緒にか? メシ屋に動物は厳禁だぜ?」
「大丈夫ですよ。この子は賢い子ですから」
「ま、ワイバーンだしな。マスコット・キャラにでもなってもらうとすっかな。よっしゃ、その話、乗った!」
もちろん、ステルサーとて、大人気なくヴァジェスにやきもちを妬いているわけではないのだが、
ただ、言ってみたかっただけである。
「アーギャ!」
それをしっかり分かっているのか、ヴァジェスはステルサーにもしがみつく。
「私は、勇者軍結成前と何一つ変わらんさ。まあ、事後処理にしばらく追われるとは思うがな、どうせ」
ラルフ王は味気ない事を言うが、今はそれすらも微笑ましい。
「そうそ、ほっぽり出した分の仕事、きちんとパパの分、残しといてあげたわよ〜♪」
それとは対称的に、面白そうに笑いまくるミルフィーユ。
「ま、私達もそうなんだがな」
サブメンバーの面々も、言いたい事を言う。
考えてみれば、全員の名前すら把握してなかったりする。
長い付き合いになるはずなので、しっかりと覚える必要がありそうだ。
「で? ザインとライナはどうすんだ?」
「ん? 俺等か……そうだな、俺もライナもまだまだ一つの場所に落ち着くような心境じゃないんだな、
これが。ま、好き放題にやっていって、それに飽きたら、大人しくしとこうかと思う。ライナ、それでいいか?」
「問題ないわ。あたしはどこまでもあなたと一緒だもの」
「ま、未来の事はどうあれ、とにかく今日は休もうぜ、ラルフ王。疲れた〜……」
「……ザインの言う通りだ。確かに、後ろ向きばかりでは良くないが、未来だけ見つめるのも疲れるものだ。
目先の事を考える時間があってもいい」
「堅苦しい理屈は言いっこなしだ。アーム城へ行こうぜ……俺、もう限界……」
「ああ。そうだな……」
「で? 皆はいつ結婚すんの?」
ミルフィーユのあっけらかんとした話題に、一同言葉を無くす。
もちろん、ミルフィーユが言う『皆』とは、ザインとライナ、ステルサーとセレナの事である。
「……アーム城で式、挙げさせてくれる?」
ライナがミルフィーユにおそるおそる相談する。
「いーわよ、いっそ、ステルサーもセレナもそうしたらいいじゃない、パーッと合同結婚式しちゃいましょ!
めでたい事は一気にね! あーめでたいわっ!」
「……お気楽王女……」
ボソリとザインがつぶやいたが、もちろん聞いてはいない。
「え? ええっ? わ、私、そ、そんな……」
もちろんセレナは慌てる。
「あのなあ……義姉さん……あんたらはもう何年も前にその意思があったんだろ? 今更心の準備もクソもねーだろが」
「そうそ。あなた、ステルサーを好きなあまり、ウチの城を崩壊までさせたじゃない」
ザインに代わって、ミルフィーユがフォローをするが、何故か不穏当な単語が出てくる。
「城を崩壊って……なんで?」
無論、問わずにはいられない。
「そこはそれ、乙女のひみつ♪」
「あのなあ……まあいいや、とにかく、帰ろうぜ!」
「撤収しましょーっ!」
遠くからあのアリシエルの声が聞こえてくる。呼んでいるようだ。
「おーう!」
全員の景気のいい声があがる。そして、勇者軍は、城へと戻った。

それからの暮らしは、ほぼ本人達が述べた通りのものだった。
ザインとライナは、旅に出て、ラルフ王とミルフィーユ王女は事後処理に追われ、
ステルサーとセレナはザン共和王国の国内で、ヴァジェスをマスコットにして、レストランを開いている。
トーマス、マリア、カインに関しては、国を治めるのに忙しいといったところで、
リースティーンはまあ、穏やかに隊内での地位を築いている。
その他の連中も、おおむね平和に暮らしている。
こうして、彼等はようやく平穏を掴み取ったのだった――


小説の入口へ戻る
トップページに戻る
inserted by FC2 system