英雄と聞き誰を思うだろうか。


世界はこの歴史の中で何度も滅亡の危機に扮していた。
だがそれを越えて人類は強く生きていた。

救った者は『勇者』と呼ばれた。
さらに彼等は以後幾千年も語り継がれることとなる……

そして現代より遥か未来。
ストレンジャー(Stranger:本来は『異邦人』の意である)という姓を持つ勇者の子孫は生き続けている。

だが……

この物語には、伝説では語られることの無い『勇者』の姿がある。


時に銀河歴1207年、1月。

チルド・シティの北東に位置する小さな村、アブソルート・ヴィレッジ。
この閑静な村に、今宵も静かに雪が降る。


「ふん、ショボい村だ……酒場も無いじゃないか……」
現れたのは1匹の人語を喋るリザードマン。上級モンスターで数匹の爬虫類族を統制しているようだ。
「酒も若い女もいない。オロチ様は何を考えて……ん?」

地を這うリザードマンの面前に、1人の少年が現れた。
「……」

「おい、そこのガキ、聞きたいことがある。」
リザードマンは少年を睨んだ。
「ん?」
「ここには何があるんだ。酒か美人か、それとも何か凄いもんでもあるのか!?」
「どうしてそんなことを……?」
「……ええい、オクタスオロチ様にここの偵察を頼まれたんだよ!!」
「オロチに……」

オクタスオロチ……オクタスとは『8つ』という意味を指す。
ヤマタノオロチの子孫とされ、今はバイオレット・ヴィレッジ近辺の竜族統治を行っている。
リザードマンは動けぬオロチの代わりに外部と接触している。

「オロチ様がここを綿密に調査しておけって遥々海を渡って来たんだ!! 何かあんだろ!?」
「……」
少年は息をついた。
「ん? 何だよ……」
「それは僕が聞きたいぐらいだよ……僕もここに来たばかりでね……」

少年はリザードマンに手を差し出した。
「手を組まない? 目的は多分一緒だよ……」
「ばっ……馬鹿いえ!! 誰が人間なんかと……」
「人間……」

すると、少年は自分の髪を指に絡ませ……
「……っ!!」
力を入れ毟り取った。すると……

「……んっ!?」
「これで分かった?」

「僕は人間じゃない。どちらかといえば妖精族に近い存在だよ……」
「……!!」
髪の毛は一瞬にして……何やらわけのわからない生物へと変わった。
「これは……何なんだ!? そんな能力初めて見たぞ……」
リザードマンはただ自分の知り得ない能力に焦った。
「話すと長くなるし……今はこんなことをしている場合じゃないかな。」

……すぐに謎の生物は干からびた。
「同じ変わり者同士、仲良くしようじゃない。」
「ふん……まあ敵じゃなさそうだしな。」
リザードマンは指が3本の掌を差し出した。
「俺はヴァイパーっていう名前だ。お前は?」
「デーティ。デーティ=エルフェン。」
「デーティ、か……まあ暫く宜しく頼もう。」

ヴァイパーは村の奥の方へ歩き始めた。デーティも付いて行った。

「あ、そうそう……」
「……ん?」
「念の為言っておくけど、僕は女だからね。」
「なっ……そうだったのか!?」


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