アブソルート・ヴィレッジの入り口からしばらく歩いた。

「聞きたいことがあるんだが……」
「……ん?」
ヴァイパーが話し掛けてきた。
「お前は一体何者なんだ? そればかりが気になって仕方が無い。」
「……」
デーティは少しの間を置いた。そして……
「ニノンの翼、って知ってる?」
「ん? ああ、ノーティ=ルストが持ってたっていう『天使の翼』だろ?
 今でも直系の子孫はその遺伝子を継いでいる故に翼を持つというが……」
「僕は本来それを持つべく生まれてきたんだよ……」
「そうか……ん!?」
ヴァイパーははっとした。
「じゃ、じゃあお前、ルスト家の血を継いでいるのかよ!?」
「ううん、そうじゃない……でも、それに憧れる人間はどうしてもいるんだよね……」

デーティは今一度髪の毛を抜いて分身を作り出した。

「僕は造られた生命なんだ。人間が神族であるべく生まれた、ね……」
「ホムンクルス……なのか?」
「うん……でも失敗作だよ。結局ニノンの翼として成るべき遺伝子はこの子達の誕生組織になっている。
 それに何しろ人間の手で作り出された存在だから……いろいろな欠落があってね……」
「例えば……?」
……デーティが分身の首の辺りを握り締めると、すぐにしおれてしまった。
「この能力の代償として、僕は魔法が使えない。守護精霊がいない。
 とても戦えたもんじゃないんだ……」
「そうなのか……」
因みにヴァイパーの守護精霊は闇である。だがリザードマンの宿命として炎にも弱い。

「……ゴメンね、暗い話になって。」
「いや、不幸合戦なら俺も負けちゃいねぇ。俺の故郷はハーヴェスト・ヴィレッジっていってな……」


「……ん?」
暫く歩いていると、これまでより民家の立ち並ぶ集落に付いた。
「こんなとこがあったのか……地図に載ってなかったぞ?」
「隠れ里、か……」
聞いた事がある。自分達だけではぐれ魔族等から身を守るのが困難な村は、こんな風に集落を隠しておくのだという。

2人は集落の真ん中に建つ教会で足を止めた。
「しっかしまぁ、辺鄙な村によくまあこんなデカいものをねぇ……」
「うん……そんな村なのかな。」
それにしてもこの教会は大きい……街にある教会と同程度、いやそれ以上の規模がある。
「(人々の心をまとめるのに宗教ほど有効なものはないからな……)」

ヴァイパーは教会の中を覗いた。
「……」
「どうしたの?」
……と、そのままヴァイパーは中に入っていった。デーティもそれに続いた。


教会の中はやはり広く、村に不釣り合いなまでに豪華であった。
椅子は前の方のみが乱れており、シャンデリアは使い込まれている割には清潔だ。
「建てられてそんなに時間が経ってないな……」
「でも凄いよね。椅子が前の方ばかりやけに使い込まれているのは数少ない村人が熱心に参拝しているってことでしょ?
 余程牧師さんが凄いのか、村人が真面目なのか、それとも……」

ヴァイパーは壁のモザイクアートを見た。
「……」
「ん? 何かあるの?」
「いや……こういう『宗教』には慣れないものでな……」
「そう……そうだよね、『宗教』は……西暦最終戦争の時に、無くなったはずの文化だからね」
「ん……これが神を表すのかな?」

……と、その時。
「ええ。それが魔神王様の抽象画になります。」
教会の奥から女教皇が出てきた。
「ここの司教の人ですか?」
「ええ。マリアベル=カラットと申します。」

マリアベルはモザイクに手をやった。
「全てを統べる王ですよ……嘗てはヤハヴェと呼ばれた……」
恍惚とした表情を浮かべ、司教はただ陶酔していた。

「(……)」


「さっぱり分からんな……」
ヴァイパーは教会を出て、近くの休憩所で落ちついた。
「単に宗教なら別に調査の必要も無い。あまり感心はせんがな。それをどうしてオロチ様は……」

「お待たせ。」
……と、デーティが来た。
「着替えてきたか。」
「うん。あの服ボロボロだったからね……それにスカートなら男には見えないでしょ?」
「ああ、まぁな……」

デーティは降る雪を見た。
「よく降るね……」
「ああ……俺の田舎よりも凄い……」
……そして空を見上げた。

「ヴァイパー……」
「ん?」
「この雪が全部天使の羽根だったら、どれだけの人が幸せになれるだろうね……」
「……悪いが、そんな童話的な話は苦手でね。」
だがヴァイパーには分かった。その言葉が彼女の中にある『天国への憧れ』を意味することを。

……と!!

「キャアアアッ!!」

どこからともなく聞こえる悲鳴……
「何だ……!?」
「ヴァイパー、行ってみよう!!」
2人は走り出した。


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