ヴァイパー達は悲鳴の方向へ急いだ。

「ぐっ……こいつは!!」
そこにいたのは民家を襲う巨大なイエティ……
「知ってるの!?」
「サスカッチっていう亜人族だ!! 腕力じゃ敵わんぞ……」

ヴァイパーは構えた。
「デーティ、下がってろ……」
鞘から刀を抜き、サスカッチの方を見た。そして一呼吸……

「剣から魔法は不慣れだが……ダーク・シューター!!」

刹那、剣の先から黒い波動が出た!!


「グオアッ!!」
その波動に包まれ、サスカッチはようやくこちらに気づいたようだ。
「……こいつ、精神力が強い!?」
「グ……ガッ!!」
殆ど効いていない。サスカッチは怯まずヴァイパーに向かってきた。
「ちっ!!」

「ヴァイパー!!」
……と、後ろからデーティが叫んだ。
「下がってろって!!」
「こっちに奴を誘き寄せて!!」
「何だと……!?」
ヴァイパーは意味が分からなかったが……こいつを信じることにした。

「ちっ……こっちだ、バケモノ!!」
ヴァイパーは後ろに退いた。サスカッチは追ってきた。
「ガアッ!!」

「……今だ!!」
デーティはサスカッチが襲ってきた瞬間、口から何かを吐き出した。

……と!!

「何!?」
またあの分身……だが形が違う!?
「グオッ!!」
分身はその長い爪でサスカッチを掴み、そして……

「グ……ガフッ……!!」
そのままサスカッチは血を失い、倒れた。


「デーティ、こいつは……?」
「僕の分身は髪だけから生まれるんじゃない。こんな風に体の一部が欠けたらそこから生まれるんだ……」
デーティはヴァイパーに手を見せた。爪の形が歪になっていた。
「この子は爪から生まれたんだよ……さっき噛んで生み出したんだ。」
「成る程……この分身は物理攻撃だから精神力も何も無いってことか……」

だが、その直後……
「う……」
「デーティ!?」
突然デーティが力を失い倒れた。
「おい、しっかりしろ!!」
ヴァイパーはデーティの肩を揺すったが、返事が無かった。


「精神力欠乏ですね。」

ヴァイパーはひとまずデーティを教会に連れて行った。
そこでマリアベルが手当てをしてくれた。
「余程高等な魔法を使ったんじゃないですか?」


精神力にも限界があるのは周知の通りだ。
では、その限界を超えた精神力を代価とする魔法を詠唱するとどうなるのか……

魔法もこの世界にある以上、等価交換の原則からは逃れられない。
そのエネルギーは本来守護精霊が持っており、魔力を失うということは守護精霊の力が尽きたのと同じことだ。
つまり、魔力が枯渇すればエネルギーの担い手がいなくなるという話である。

そんな状態で魔法を使ったら……当然、それに必要なエネルギーは詠唱者本人が出すしかない。

ヒールバスター程度の軽い魔法でさえ、守護精霊が眠っている状態で詠唱すると意識を失う。
誰でも魔法が使えるわけではない理由の1つがそこにあるのだ。


「高等な魔法、か……」
冷静に考えれば、いくらなんでもこの分身を魔力も無しに作り出すなどということは不可能ではないか。
やはり、僅かながら精神力を消費しているのだろう。
だが彼女には守護精霊がいない。だからあまり乱発するとこうなるんだろうな……

「まあゆっくりお休み下さい。」
そう言い、マリアベルは個室を出ていった。

「(あー、もう何がなんだか……)」
ヴァイパーは今一度これまでのことを思い直してみた。


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