「……よって、この村には莫大な聖水プラントがあり、これが外部に出た場合における国交変化は……」
夜になり、ヴァイパーはオロチに手紙を宛てていた。
デーティはすぐ横のベッドで眠っていた。

「すみません、宜しいでしょうか。」
ドアの外からマリアベルの声が聞こえた。
「ああ、どうぞ。」

「すみません、コーヒー持ってきました。」
「どうも。」
ヴァイパーは机にコーヒーを置いた……と、マリアベルの目がヴァイパーの手紙にいった。
「それは?」
「ま、聖水の源泉に関する報告書っすわ。これが目的だったんでね……」
「そうですか……」
それだけ言うとマリアベルは去って行った……

「……あ、1つ聞かせて欲しいことがあった。」
ヴァイパーがマリアベルを止めた。
「ここの村人、この事を口止めされてるんですか?」
「口止め、というのは響きが悪いですね……
 魔神王様がおっしゃったのですよ、聖水の場は口外厳禁だ、ということを……」
「そうだったんだ……」
宗教とは怖いものだ……一つの理念を置けば、信者はそれを忠実に守る。
西暦が宇宙歴になるのを待つまでもなく、あらゆる宗教が自然消滅したのも頷ける。

「我々の理念から言えば、その手紙は即刻処分して頂きたいんですが……」
「ん? ああ、そういうことなら仕方ないっすね。」
ヴァイパーは報告書を丸めて捨てた。
「何も無かった、ということにしましょう。」
「ええ、すみません……」

まあどこにも事情というものがある。
ここにそういう宗教があるなら、オロチに報告出来ないのもやむなし、だな……


……次の日。

「……ん、あ。」
デーティはいつもより早めに目が覚めた。ヴァイパーも既に起きていた。
「目覚めはどうだ?」
「うん……」

「……で? これからお前はどうするんだ?」
ヴァイパーは暫く付き添っていた少女に聞いた。
「うーん……」
「俺は帰るぜ。何も無かったって言ってな。」
「そう……僕はどうしようかな……」
「何なら俺の所に来るか? 美味いもん食わせてやるぜ。」
「えー、美味いものってまさかミミズとかじゃないよねぇ。」
「違うわい。何しろオロチ様が修めておられるんだ。酒と女にゃ困らない国柄なんだよ。」
「お酒かぁ……」


2人は外へ出た。
……すると、教会の周りを村人が囲んでいた。

「ん? 手厚い送迎かな?」
だがそれにしては様子がおかしい……村人が皆、殺気立って2人を見ている。
「……」

「……成る程、そういうことか。」
ヴァイパーは悟った。
「えっ?」
「要するに、秘密を知った奴は逃がさない。ここの村人にしちまってるんだな。
 それで洗礼を受けさせればあの聖水の池の秘密が外部に漏れ出ることは無い。」
「分かってるんだな……そうだ、あんたらは俺達の村の人間にならなければならないんだ。」
「……」

ヴァイパーは刀を抜いた。
「悪いが、俺には故郷ってものがあるんでね……
 新鮮なイワシの刺身をワサビ醤油で食いたいんだよ、焼酎で一杯な……」
「ヴァイパー……」
「デーティ、こいつらを蹴散らすぞ……伏せてろ!!」

ヴァイパーは剣を高く掲げた。
「闇よ切り裂け!! ダーク・ウェイブ!!」


……辺りを黒い闇が支配し、村人達を襲った。
「ぐあっ!!」
「……今だ、デーティ!!」
「うん!!」
村人の中を2人は一気に走り抜けた。

……だが。

「ライト・ウェイブ!!」

……突然闇はかき消された。
「……!?」
「光魔法……」

光の中、2人の前に現れたのは……


「来たな、司教マリアベル……」
「……」


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