それから数ヶ月後。魔王城。

「サタン様、客人です。」
玉座には魔王と呼ばれる者が座っていた。
「誰だ……」
「シンシア=スターリィフィールドです。」
「ふん……通せ。」
「はっ!!」

何匹かの魔物に包囲され、闇の鎧を着た女が歩いて来た。
「ふふ……ご無沙汰ですね……」
「用件は早く済ませてもらおうか……」

鎧の女は何か、暗紫色の干物を持ってきた。
「これは……?」
「ある少女が持っていた『羽根』ですよ……」
「『羽根』? にしては随分硬く無様だな……」
「言うなれば、『羽根』の出来損ないですよ……」

女は話を始めた。
「嘗てノーティ=ルストが持ったとされる『天使の翼』……
 その翼はその本来の持ち主であった天使の名を借り『ニノンの翼』と名付けられた……」
「今その子孫は勇者軍メインメンバーに入ったというな……」
鎧の女は再び干物を魔王に見せた。
「この翼はヴェルヴェットとでもしましょうか……柔らかだが不透明で繊細すぎる……」
「ヴェルヴェットの翼か……だがこれでは折角のヴェルヴェットも台無しだな。」

女は魔王の前を離れた。
「この翼を持つ少女は今に貴方の元に現れますよ……そこで実物を見ることが出来ましょう。」
「楽しみだ……ふふ……」
サタンの微笑に、女もまた不適な笑みを浮かべた。

「(翼を持ちしも飛べない……まるで鶏のよう……)」


一方、バイオレット・ヴィレッジ。

「ヴァイパー、元気だった?」
墓の前に少女の姿があった。
「オロチ様から良いお酒貰ってきたんだ。この辺のリザードマン族は皆お酒と女が好きなんだってね。
 女は……ま、悪いけど僕で我慢してよ。」
そう言い、少女は笑った。

少女は墓石に酒をかけた。
「あれからこの世界は争いが絶えなくなったよ……その首謀者が奇しくも君を殺した奴、シンシアだった……
 悔しいけどあいつの策謀には負けたよ……あの村はすぐに崩壊しちゃった。」
酒が切れると少女は瓶をしまい、姿勢を直した。
「でも僕は諦めないよ。あの後サイモンっていう人に助けられてさ……
 しばらく妖精の森っていう場所で過ごして、今はこうやって割かし自由にやらせてもらってるよ……」

……と、少女は何かを思い出した。
「あ、そうだ、僕が持つことの出来なかった『翼』だけどさ……本当の翼を持つ人に会ったんだ。
 正真正銘のライナ=ルストの子孫の人でさ、すごく優しくって……」
そう言い、髪を引っ張り……例の分身を作り出した。
「この子達もいずれ、僕の翼になるんだって言ってくれた……」
少女の瞳に涙が浮かんだ。

「……ゴメン、喋り過ぎたみたいだ。」
眼をこすって、また亡き者に話し始めた。
「最後に……僕は今、一番戦いに近い場所にいる。
 昨日サイモンさんに連れられてある人に逢ったら……僕の夢が叶う瞬間がすぐそこにあったんだ。」

デーティはその辺にあるツツジの花を採って墓に飾り、その場を去った。

「僕は倖せになるよ……そして僕は倖せを作るんだ……」


そして……村の酒場。

「遅いぞ、デーティ。」
「ごめんなさい!!」
そこでは何人もの戦士たちが少女を待っていた。最初に出迎えたのは当のサイモンだった。
「それじゃあエド、改めて言ってやってくれ。」
「ああ。勿論だ。」
そう言い、リーダー格の青年は言い放った。


「デーティ=エルフェン、君を勇者軍サブメンバーに任命する。」

後、シンシアの本性こそがこの件をデーティの次ぐらいに悲しんでいた事が分かり、
彼女自身がセシリア、サイモン、シンシアの間を行ったり来たりする事になるという事と、
同じ時間の異なる世界へ火種を生むという事は、この物語における最大の皮肉と言えるだろう。


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