特別長編・はじめてのWii


2006年11月30日、某所ヤマダ電器にて……。
兼ねてより前評判の高い任天堂のWiiが発売、いや降臨する2日前の事である。
その日、仕事から帰って直後に2時間ものプロバイダ変更に伴う、
モデム接続及びソフトインストールの作業を行い、疲労度がかなり上昇していた。
だが、これはWii購入への下準備に過ぎなかった。この日は……木曜日だったのだ。

翌日、12月1日。前日である。この日の仕事を終え、素早く帰宅。
友人Mと合流し、突如として現れた戦友T氏を加え、我々3名はヤマダ電器へと向かう。
ヤマダ電器に確実に配備されるという情報のみを当てにして……

PM20:00
アミューズメントセンターで時間潰し……

PM22:00
ヤマダ電器へ到着。するとどうした事であろう。
既に5名も到着して、しかも寝袋完全装備で待機しているではないか。
これにはMとT氏、仰天(俺はこの程度ならヌルいと思うのだが)。
しかし、ヤマダ電器が100台キープしているという
今度は俺にとって予想外の朗報を得たので、一度退却。腹ごしらえ。

AM0:00
再度ヤマダへ到着。後で分かった事だが3人ほど増えていたらしい。
M「100台ぐらいヤマダは手に入れるって言ったやろ?」と
しきりに自慢していたがそんなものは結果論に過ぎない。
だが、甘い。

ゲーマー大原則が、一つ。
ゲーマーたるものは、いかなる時も全力を尽くし、
油断してはならないからである。
まして慢心など論外であると言わざるを得ない。

とりあえずキープに成功。これも後で判明したが、順番は
T氏が9番目、Mが10番目、俺が11番目であった模様。
……ここからが、勝負である――

AM1:00
突然、相互の友人KEN君から連絡。
差し入れに来てくれるとのありがたいお言葉。
時折トイレ休憩で交代しながら、行ったり来たりを繰り返す時間が続く。
……少し、冷えてきただろうか。

AM2:00
Mが突然車の中に引っ込んでるなどとヘタレな事を言い出すので驚いた。
本当にやる気はあるのだろうか?
T氏と共にしばし耐え抜く。

AM3:00
使い捨てカイロ11枚をあらかじめ購入していたが、
この程度でははっきり言ってどうにもならない。
寝袋装備でもっと早くに来ている連中の方が、よほど場慣れしている。
我々ゲーマーは、彼等にこそ敬意を表さねばなるまい。
そんな中KEN君登場。ホットコーヒーが遠慮無しにありがたい。
しかし恐ろしいのはわずか10分足らずで自販機のコールドコーヒーより冷たくなる事だ。
この時、死の危険と、戦場(いくさば)の雰囲気。
ここに俺はゲーマーとしての実感、生きている実感を感じてみた。

ここでアクシデント発生、T氏の飲みかけコーヒーが転倒。
下にあったMのバッグが被害を被る。大爆笑。
しばらくツボに入りっぱなしで呼吸さえ辛かった(笑)。
一服の清涼剤となり、しばし緊張が緩むが、
すぐに風が少し吹き始め、また立ち尽くすことになる。

MもT氏も車の中へ引っ込んでいった。
だが俺には退く事が出来なかった。

ゲーマー大原則が、一つ。
ゲーマーは、どんなに追い詰められても絶対に退いてはいけない一線を感じ、
そのような時にこそ奮い立ち、常識では考えられないような
力量や器量を遺憾なく発揮せねばならないからだ。

AM4:00
KEN君とダベったり、寒さに凍えて『寒い寒い』を連発したりと
かなり悲惨な状況の中、何故かこの戦場に似つかわしくない、
5、6歳ぐらいの小さな女子が一名、迷い込んできた。
最軽装備の俺から見ても、それほど重装備には見えないその女子は
ちょこんと物言わず座り、泣き言の一つも言わずじっと耐え抜いている。
MやT氏は『子供は風の子』などと言って軽く笑っているが、
これは、俺達の状況を文字にすると『子供以下の忍耐力しか持ち合わせていない』という
考えただけで腹立たしい事態を意味し、かなりプライドが傷付いた。

ゲーマー大原則が、一つ。
ゲーマーは己の力量と気力の及ぶ限り、自らの誇りを守り抜かねばならない。
高みへ昇ることを忘れた者は、いつか脱落するしかないからである。

AM5:00
風が吹き始め、本気で命の危険を感じたため、
心肺停止を絶対阻止すべく、貼るカイロにて、心肺部分を重点ガード。
ある意味これ以上ないほどの延命策である。
そんな中、KEN君が離脱。
本当に助かった。しかし風は強くなるばかり。
先述の女子も時折引っ込んではいくものの泣き言一つ言わない。
悲しいが、彼女の健闘で闘争心が刺激されていく。ゲーマーの性(さが)だ。
彼女が父親らしき人物を気遣っている様子に感動さえ覚えてしまった。

ゲーマー大原則が、一つ。
ゲーマーは窮地にあってこそ、自分より他者を気遣わねばならない。
ゲーマーは人間として一般より尊敬されるべき存在でなければならないからである。
(一般より尊敬される、際たる例は高橋名人、毛利名人などが顕著)

AM6:00
夜が明けてこないのが気になり、呑気に待ってるヘタレのMを起こして時間を訊いた。
すると原因発覚、まだ朝早すぎるのはともかく、雨のち曇りの天気だというのだ。
ほどなく風に加え、雨まで降ってきた。冗談ではない。

AM7:00
ようやく空が白んできた。既に俺の腕や足は感覚をほぼ失っており、
立ち上がる事さえ億劫である。件(くだん)の女子は未だちょこんと座っており、
本人の知る由も無く、俺に闘争心を与え続けてくれる。

AM8:00
ようやく事前に用意した暇潰し用の小説の出番である。
もはやまともにうごかない手の平を無理矢理動かし、ひたすらに時間を潰す。
T氏とMも何とかヘタレモードより復帰したが泣き言が多過ぎる。
後で聞いた話だが、この寒空の中待っている北陸地方の民や、
アイスを食って余裕で笑ってるなどという強者達に対し、非常にみっともない。

AM9:00
ここで遂に店員さん登場。期待の第一声、寒いんで中に入って待ってて下さい、の一言。
そして整理券登場。期待に胸躍らせ、ヴォルテージは最高潮、疲労も最高潮。

AM10:00
待ちに待った発売開始、既に精神状態がおかしくなりつつある俺は店員さんの前に出るや否や一息に言う。
俺「現金でWii本体とゼルダとはじめてのWiiと5000円数量限定プリカセットとヌンチャクと
SDメモリーカードとWii有線LANコネクタ、ポイントカードのポイント未使用でお願いします!!」

店員とその場にいた主任らしき人物大混乱。この豪気すぎる要求に若干ながら、周囲のざわめきも。

AM10:10
結局一部のOPパーツが延期のため、任務達成率は80%といった具合。
しかし充実した勝利の味を噛み締め、ゲーマーの本懐を遂げた俺に後悔などない。あろうはずが無い。
未だにMが「100台ぐらいあるって言ったやろー?」と自慢げに戯言をほざいているが、
戦術というものを理解していない。最悪の状況から優先してより的確な戦略を導き出すのが常道だからだ。
(ちなみに俺は20台も入れば上等だと思っていた。結果として目論見はMの方に傾きこそしたが、
 油断などして失敗するぐらいなら、取り越し苦労の方が戦術的にはまだ賢いとも言えるのは当然である)

AM10:30
T氏と別れ、Mとも別れ、遂に帰路につく。幾度か命の危機を感じたが何とか生きて帰れる。
心地よい充実感に満たされ、何とか帰宅。ひとまず休息を取る。Wii購入任務終了。
これにて無事、レポートを終える事が出来る……

かと思ったら甘すぎた。
20台ぐらいしか無いのではないか。
100台あっても買える保証などないかもしれない。
油断は即ち、即敗北を意味する。
そんな気合と根性、そして名も知らぬ女子の存在に刺激され、
何とか耐え抜いた10時間。
その全てを打ち砕くわが兄の素晴らしすぎるオチがこちら。
(↓)

























PM1:20
我が兄も出張っていたらしく、兄、帰宅。
兄「よう、Wiiな、GEOに10台ぐらい余ってたぞ〜」

Σ( ̄口 ̄;)

なんでもGEO(大手チェーン店)には異常な数の行列が出来ており、
既に購入は無理だと思ったWiiのターゲット層が退いてしまったのだそうである。
しかしそのGEOの行列はWii狙いのターゲットではなかった!

レンタルビデオ80円レンタルキャンペーン待ちの行列だったのである……
しかも別のヤマダ電器にも大量に在庫があり、トイザらスに至ってはなんと200台キープだとか……
思わず脱力しきって俺が意識を失いそうになったのは言うまでもない。

ゲーマー大原則が、一つ。
ゲーマーはいかなる状況でも冷静に行動し、
世の中は全て情報戦である事を忘れてならない。

まだまだ、俺も未熟である。


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